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【SPBS奥渋谷界隈探訪】#02 葉花 3人の店主の個性がにじみ出る「都会のオアシス」

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共同経営者の飯田淳さん

 
たくさんの魅力的なお店が点在するエリアとしてメディアでも度々紹介され、連日多くのお客さまで賑わっている奥渋谷。
 
そんな奥渋谷に点在する個人店を、SPBSが同じ商売仲間として本音やヒミツを引き出し、さらなる魅力を掘り下げていく連載企画、「SPBS奥渋谷界隈探訪」がスタートしました。
 
2回目の探訪先は、個性的な草花が多数セレクトされているお花屋さん、〈葉花〉。2003年、これまで企業向けの生け込みや植物ディスプレイを手がける会社で共に働いていた3人によって、富ヶ谷にオープンしました。以来、15年にわたってこの土地で愛されています。これまでの歩みとお店の魅力について、共同経営者の飯田淳さんにお話を伺いました。
 
(取材・文=SPBSスタッフ)
 

15年前、うら寂しいストリートから。

──葉花さんのオープンは2003年ですよね。今年で15年を迎えられたわけですが、オープン当時はこの界隈はどんな様子だったんですか?
 
飯田淳(以下飯田):ちなみに本屋さんはいつオープンですか?
 
──2008年です。
 
飯田:じゃあ、今年で10周年ですか! 10年前もけっこう寂しかったですよね。15年前は、それに輪をかけて本当にお店がなかったですね。当時から変わらないのは〈テオブロマ〉さんと、文房具屋さんと電気屋さんと……〈テーラーマスミ〉さん。あとはだいぶ入れ替わってしまいました。
 
──うちのお隣の、お肉屋さんの〈栄屋〉さんや、〈堀内ベーカリー〉さんも結構古いですよ。
 
飯田:そうか、神山町の方にもいくつか古いお店が残ってるんですね。今と違って、本当に人通りが少なかったですよね。平日はNHKさんはじめ会社勤めの方とか、洋服屋さんの関係の卸の方なんかがちらほら歩いてらっしゃったんですけど、土日は全く人がいませんでした。
数少ない通行人は、外からうちのお店を覗いてくるんですけど、みなさん入ってこなかったんです(笑)。入ったら最後……みたいな雰囲気が出ていたのかもしれないですね。
 
──うちもオープン当初は人通りが少なかったです……。当時はいまよりも品数が少なかったので、スッキリ見えすぎてしまっていたのか、ギャラリーですか? と言われたことも。人はいないし、入り口がガラス張りだからお店の中が丸見えだし、一人で中に入るとひたすら目立つっていう。
 

 

さまざまなテイストの植物、花、雑貨が並ぶ店内

 
飯田:まだSPBSさんの方(神山町)は人が歩いてましたよ(笑)!
この辺の通り、昔なんて呼ばれてたか知ってます? 「モトスリ通り」。お店にかけた元金を全部スっちゃうっていう意味です。僕らも後から知ったんですけど、それくらい商売がうまくいかない土地って言われてたんですよ。
 
──「モトスリ通り」はかなり強烈な名前ですね! 初めて知りました。それでも、15年もお店は続いていらっしゃるからすごいですよね。
 
飯田:なんとかお店を残そうって、みんなで頑張ったんだと思いますよ(笑)。当初は花屋での仕事と並行して、企業さん向けの生け込みとか植物のリースとかもやっていました。あとは、オープンして数年経ってからNHKさんのお仕事もいただくようになって。
たまに花束買ってくれる方が番組を持ってらっしゃったりすると、お祝いのスタンド花も依頼をいただいたりとか。最初のうちは、そんなこんなでなんとか凌いでいました。
アヒルストアさんできたあたりから、人の流れがグッと変わって来た気はしますね。
 
──そう仰る方は多いですね。実は、アヒルストアさんとうちが同い年なんですよ。
 
飯田:えっ、じゃあ、あそこも10年ですか! すごいなあ。
それで、ここ5年くらいですかね、一気に飲食のお店が増えて、人通りも見違えるほど多くなったし、いろんなところで注目されるようになってきましたよね。だから、今は、通りを歩いている方が吸い込まれるようにお店に入ってきてくれるようになりました。
 
──遠目から見ると、通りに出ている草花が目を引いて、オアシスみたいに見えるんですよね。吸い込まれてしまう気持ちがわかります。
 
飯田:あっ、そういえば作った当時、「都会のオアシス」って謳ってましたね(笑)。癒し系花屋って勝手に名乗ってました。
 

葉花

 

奥渋谷発祥の謎

──「奥渋谷」って言葉は、15年前当時ありましたか?
 
飯田:いや、ないないない! そう呼ばれるようになったのって、ここ何年くらいでしたっけ……? たぶん、5年、3年くらいだと思うんですけど、いつの間にか神山町の方は通りの街頭に黄色い旗もぶら下がるようになって。
 
──いろいろ説があるみたいですよ。お洒落な地域として認知されてきたあたりから、自分が名付け親だと名乗る人があちこちに出現しているみたいです。神南のあたりがもともと「裏渋谷」と呼ばれていて、それに対抗してこちらが「奥渋谷」になったとかならないとか。

(※詳細は「SPBSがつくる『みんなの辞典』 #01 奥渋谷」ご参照)

 
 
飯田:そうなんですか。じゃあ、酒の席で誰かが言い出したんでしょうねぇ。
そういえば、うちに「奥渋ライター」があるんですよ。足立(共同経営者・足立啓介さん)がどこかでそういうのを見てきたらしくて、「うちもあれ作りたい」って言い出して……。
 

個性的な雑貨に混じって存在感を放つ「奥渋ライター」

 
みんな、あちこちで勝手にこんな「奥渋谷グッズ」を色々と作ってるんじゃないですかね。
ちなみに、今回のこちらの企画では、奥渋谷の位置はどのように定義されてるんですか?
 
──一応、「富ヶ谷・神山町・宇田川町・松濤」と目安があるんですけれども、その辺をぼやかすために「奥渋谷“界隈”探訪」とつけているんです(笑)。
 
飯田:なるほど(笑)。
 

ウィンドウショッピングができる花屋を目指して

──そんな、まだまだ寂しい通りだったこの場所に、お店をオープンしたきっかけはなんだったのでしょうか?
 
飯田:最初は、目黒通りなんて面白いんじゃないか、って話してたんですよね。家具ストリートなんて言われてて、おしゃれな感じがいいよねって。でも物件が全然空いてなくて、うちは3人で共同経営なんですけど、3人であちこち探してもまったく見つかりませんでした。
そんな時に、たまたまチラシでこの物件を見かけて、内見に来たら天井が高くてすごく気持ちがいい。絶対に天井が高い物件じゃないと嫌だ、という話をしていたので、ここしかないね、となりました。
 
──共同経営のみなさんはどちらで出会われたんですか?
 
飯田:もともと、前職が同じ会社でした。そこで10年近く一緒に働いていて、企業さん向けの生け込みとか、植物のディスプレイなどをやっていたんです。それで、3人でお花屋さんをやりたいよね、という話になり。
 
──お花屋さんのお名前って、横文字が多いので漢字は珍しいですよね。なぜ〈葉花〉というお名前にしたのでしょうか?
 
飯田:金藤(共同経営者・金藤祐子さん)が、「『なんとかフローリスト』とか、『なんとかフラワー』みたいなのは絶対に嫌だ、漢字がいい」って言い張ったんですよ。
だから3人で漢字の名前をあれこれ書き出して……洒落っぽいのもありましたね。植物の「植」に「花」で「植花(ショッカー)」とか(笑)。
そんなことをしていくうちに「葉花」っていうのが出て来て、語呂もいいし、なんだか雰囲気もあるし、いいんじゃない?と決まりました。
NHKの西門の前の地下に入っていったところに〈MU〉っていうギャラリーバーがあるんですけど、そこで展示されていた甘雨さんという書家の方に描いて頂いたものを今はロゴに使わせてもらっています。展示にお伺いした時に団扇にさらさら、と書いていただいたものが本当に格好良くてすぐに気に入ってしまったんです。
 

甘雨さんによる「葉花」の書

 
──素敵ですね!
ところで、セレクトされている植物、お花はもちろんのこと、雑貨も面白いアイテムが置かれていますよね。仕入れは皆さん全員で担当されているんですか?
 
飯田:そうです、用賀の世田谷市場と、大田区の大田市場っていうのがあります。大田市場は、「花き部門」と野菜・果物などの「青果部門」では日本最大の市場です。
市場は週に3回、朝の5時くらいから開かれるので、3人でそれぞれローテーションで仕入れに行きます。
 
──奥渋谷は早起きの方が多いんですね。そこの〈CHEESE STAND〉さんは毎朝3時に牛乳が届くんだそうです。

(※詳細は「【SPBS奥渋谷界隈探訪】#01 CHEESE STAND」ご参照)

 
飯田:3時に!? もうお店にいるんですか!? えっ、その日の牛乳ってこと?
 
──そうです、その日の牛乳で作るフレッシュチーズ。
 
飯田:すごいですね。じゃあ、お豆腐屋さんと一緒なんですね。毎日大変だ……うちの場合は3人で交互に行ってるので楽チンですよ。それぞれが自分のテイストで買い付けてくるんですけど。
 
──みなさん、買い付けする商品や、アレンジの好みなどは3人の中で結構違ったりするんですか?
 
飯田:うーん、口で説明するのは難しいですね。多分、僕たちにしかわかんないです(笑)。お客さまからしたら、どれも同じに見えると思いますよ。

でも、買い付けもそうですし、お正月のお飾りなども3人で手作りしてるんですけど、3人でお互いに見入比べたら一目瞭然です。それは、昔のアレンジメントの写真を見ていてもわかります。たまに、誰かが買い付けてくるものが僕の気に入らない場合があったりするんですけど、そういうのが売れたりするので、わかんないですよね。

個人でやっているお店だと、自分の気に入らないものは絶対買ってこないでしょうから偏るのかな、と思うんですけど、その点、うちはほどよいミックス感が醸し出されているんじゃないでしょうか。
 

開放的な空間が広がっている店内は、高い天井をつかって、さまざまな植物やアイテムがディスプレイされている

お花屋さんなのに、なぜかイルカのアクリルたわしが……。それでも、違和感なくこのお店の雰囲気にマッチしている

 
──たしかに、お店全体に楽しい雰囲気があって、あちこち目を惹かれます。ここに吸い込まれてきてしまうと、うっかり当初の目的とは違うものを選んでしまいそうになりますね。
 
飯田:そう言っていただけるとありがたいですね!
うちは敷地も結構広いし、天井も高いので、ウィンドウショッピングできる花屋さんっていうのがやってみたかったんですよね。花屋に来るお客さまって、普通は花を買うという目的のためだけに来店されると思うんですけど、うちでは色々と見て回って、楽しんでいただきたいんです。こんなのもある、あんなのもある、って。
僕たちも楽しいんですよ、「なにこれ?」みたいな、自分が買い付けてないものが不意に置かれてたりすると(笑)。
 
──今後何かチャレンジしてみたいことはありますか?
 
飯田:そうですねえ、やっぱり店舗増やしたいかなあ。オープン当初からそういうビジョンは持ってました。
この富ヶ谷のお店と同じテイストで一人1店舗、合計3店舗は作ろうって。あとは結局、テナントの出会いみたいなものもありますから、ひとまずは地道に頑張って行こうかなと思ってますね。
 

 
15年の長きにわたって、花、植物のある豊かな生活を、奥渋谷から発信し続けている〈葉花〉さん。ただお花を並べるだけではなく、個性的なセレクトによって、人生を楽しむ気持ちや、好奇心を呼び覚ましてくれるオアシスのようなお店でした。
 

葉花(はばな)

東京都渋谷区富ヶ谷1-14-14 10:00〜19:00 無休(お盆正月を除く)
 


 
<プロフィール>

飯田淳(いいだ・あつし)さん

1968年生まれ。愛知県出身。19歳で上京。イラストレーターを志し、セツ・モードセミナーに通う。イラストレーターになることを断念してからは建築模型を製作する事務所に就職、その後法人向けの植物・生花のリース、活け込みを手がける会社に転職し、足立啓介、金藤祐子に出会う。2003年、35歳の時に3人で〈葉花〉をオープンした。

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