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本と本屋の未来を考える小さな研究室「BOOK SHOP 3.0」 第1回ゲスト スタンダードブックストア代表・中川和彦さん

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本と本屋の未来を考える小さな研究室「BOOK SHOP 3.0」 第1回ゲスト スタンダードブックストア代表・中川和彦さん

SPBSでは月に1度、本と本屋の未来を考える勉強会『BOOK SHOP 3.0』(代表・福井盛太主宰)を開催中です。本HPでは、これから定期的に、同勉強会の模様を一部ご紹介していきます。 記念すべき第1回目のゲストは、大阪・心斎橋にお店を構えるスタンダードブックストア代表の中川和彦さん。本が売れない・読まれない時代の書店ビジネスについて一緒に考えました。

 

文=柴崎研

 

本と本屋の未来を考える小さな研究室「BOOK SHOP 3.0」
第1回ゲスト スタンダードブックストア代表・中川和彦さん
「本が読まれなくなった時代の本屋ビジネス」

本屋と雑貨屋の境目

 

福井:スタンダードブックストアさんは、いま何店舗あるんですか?

 

中川:名前がついているのは3店舗あるんですが、僕がタッチしてるのは心斎橋店だけです。

 

福井:そうなんですか。

 

中川:その方がやりやすいんです。スタッフに、自分の意図や思いを言語化して伝えることって結構難しくて、なかなか何店舗も見きれない。だから僕は心斎橋店のみを見るようにしています。実際、他の2店舗でいま何が行われてるのか、僕はほとんど知らないです。

 

福井:最近は心斎橋店の1階に「WEGO」という古着屋さんが入りましたよね?

 

中川:はい、それで運営はとても楽になりました。というのも、2フロアで本屋をやるのは本当に大変で。とにかくお店をコンパクトにして、もう少しお客さんとコミュニケーションを図りやすいような形を考えていたんです。そういう意味で、WEGOさんに入って頂いたことはすごく良かったです。

 

福井:なるほど、売り場の面積って割と重要ですよね。

 

中川:そうですね、やはりコンパクトな形がいいです。

 

福井:SPBSはちょうど30坪ほどなんですが、僕はこのくらいの規模感がとても気に入っています。なんとなくフラッと入って、色々なものを見て買っていく、という行動には適した丁度いい面積だなと。これ以上広すぎると、なんとなく疲れてしまいます。

 

中川:売り場の中身の話をすると、SPBSさんは雑貨が多いですが、うちは雑貨が少ないんです。売り場面積も、本より雑貨の方が狭いし、売上も少ない。これは本屋として、圧倒的に本の方が売れているという話の裏返しでもあるのですが、このバランスは少し変えていきたいと思ってます。

 

福井:SPBSは、本と雑貨の売上がおおよそ半々です。売り上げ的には半々ですが、売り場面積に占める割合は、本の方が圧倒的に大きい。そこのバランスは、店作りをする上でかなり大事なポイントですよね。売り上げだけでなく、見た目も雑貨の比率が高くなってしまうと、その瞬間に「本屋」ではなく「雑貨屋」と認識されてしまいます。本屋として認識される境界線がどのあたりなのか、ということは常に考えてやっています。

 

地方書店の「イベントのジレンマ」

 

福井:いまや本屋の経営を考える上で、イベントの開催は欠かせないものになっています。お客さまと本屋、作家とお客さまの接点になるのはもちろん、物販以外の収入源にもなるからです。スタンダードブックストアでは普段どういう形でイベントを開催しているんですか?

 

中川:基本的には、本が発売されたタイミングが多いですね。それは経費の問題が大きくて、出演者の交通費やギャラを出版社が負担してくれることが多いからです。本が出たときじゃないと、彼らもそういう予算を計上できないみたいなんですよ。ただ、これは面白いと判断した企画があれば、予算に関係なくやります。外部からの持ち込み企画もありますが、著名人のイベントでも内容によっては見送らせて頂くこともありますね。

 

福井:東京に比べると、地方都市の方がイベントを開催するのにいろいろと制約がありますよね。

 

中川:そうですね、たくさん著名人のイベントを組めるのは東京でしか出来ないので、羨ましいです。でも著名人ではなくても、その店らしいイベントを企画することは可能だと思ってます。 例えば、近所のおじさんが旅行好きで、旅行の話を聞くというイベントで10人集まれば、それも立派なイベントです。地方の小さな本屋でも、工夫すれば十分出来ると思います。

 

福井:確かにそうですね。イベントの中身でいうと、最近は特にPR色の強いものが多い印象です。書籍のタイトルを使って、大々的に打ち出されると「またPRか」と飽きられてしまいます。

 

中川:うちでも最近、SHOWROOM代表・前田祐二さんの『人生の勝算』という本のイベントをやりましたが、ぼくは、本の内容に全然関係ないことを喋っていました(笑)。本と同じことずっと話していてもつまらないし、面白かったら何でも良いかなという考えでやってます。

 

読書には、訓練が必要。

 

中川:読書離れという言葉がありますけど、うちの娘もあまり本を読まないんです。何とかしたいなと思って、本の内容を写真に撮ってLINEで送ってみました。1日10ページずつ毎日送って、20日間で1冊読破させてみたんです。そうしたら段々と本に興味が湧いてきたみたいで、今では自ら読みたいって言っていますね。

 

福井:それは面白いですね。

 

中川:その方法がベストか分かりませんけど、本を読まない方たちには、何でもいいから本と接するような経験をしてもらいたいなと思います。

 

福井:本を読むことって、実はすごいフィジカルな行為だと思うんですよ。それなりにしっかり脳みそを使うし、体力もいるというか。心身ともに健康でないと楽しめない部分もある。

 

中川:能動的になる、と言うんですかね。

 

福井:最近、読書ってジョギングに近いなと思うんです。ジョギングって、実際に走るまでは、面倒くさかったり、中々気持ちが乗らなかったりするんですが、走り終わってみるとスッキリして「やってよかったな」と思います。
読書も、まだチャレンジしていない人からすると、「大変そうだな」「面倒くさいな」と思う部分もあるのでしょうけど、一冊読み終えてみると「ためになったな」とか「次はもっとこんな本を読んでみようかな」とか、そういう気持ちになれます。つまり、読書にも筋力や持久力みたいなものが必要で、それをつけるにはジョギングと同じようにトレーニングが大切なんです。読書が苦手な人に本を読ませることは、運動嫌いな人に走らせることと同じくらいの難しさが多分あります。

そこをどうクリアするかと考えたときに、ヒントはスポーツジムにある気がしています。あそこって、運動が苦手な人にも入ってもらえるようなアプローチを色々していますよね。「こんなに簡単に続けられます」みたいに。たぶん彼らの宣伝手法に、読書をさせるきっかけづくりの答えに近いものがあるんじゃないかなと思ってます。

 

中川:なるほど。僕の場合、娘にやったのが、運動前の柔軟体操やストレッチみたいなものだったのかもしれませんね。

 

福井:そうですね。いま大事なのは、とにかく本を「読む」こと。読んで、読んで、トレーニングを積む。トレーニングを積んで持久力や肺活量が増してくると、どんどん長い距離を走る、つまり、長編を読んでみたくなる。読書ってトレーニングがないと、無理ですよね。

 

中川:そうですね。

 

本屋の衰退とCDショップの衰退は意味合いが違う

 

福井:最近よく考えているんですが、我々の業界と音楽業界って、状況は似ているようで内実は全然違いますよね。音楽の世界は、CDショップとか無くなってきましたけど、音楽全体のマーケットは全然小さくなっていないです。ライブとか、音楽配信とか含めるとかえって大きくなっている。なぜかというと、音楽を聴く人自体はいなくなってないから。だけど、本屋の世界は、マーケット自体が縮小しているんです。本を読む人間が明らかに減ってきている。その点が決定的に違います。

本屋の世界の危機って、別に本屋が潰れていることじゃないんですよ。本を読む人間が減っていることが一番の危機なんです。本読む人間自体がいなくなれば、そもそも本屋だって出版社だって生きていけないわけで。

 

中川:本って、人間社会の中で絶対に必要なものですからね。それを読まなくなるなんて、機会損失も甚だしい。

 

福井:はい。これだけ過去の膨大な知識や知性のアーカイブがあって、それを今の人間が読んで、未来に繋げていく。それは、絶対にやりつづけないといけないことだと思います。本を全く読まなくなるということは、人間を捨てるに等しい行動と言えるかもしれません。

 

中川:なるほどね。

 

福井:そういうことが、ぼくの問題意識でもあるんです。その思いを根底に抱えながら、僕は本の仕事をしています。

 

中川:読書人口を増やすためにも、本と出会う場所をもっと増やすことが大切ですね。手を変え品を変え、とにかく色々な場所から本にたどり着いてもらう。私も頑張ろうと思います。今日はありがとうございました。

 

福井:ありがとうございました。

 

 

<プロフィール>

中川和彦

スタンダードブックストア代表 1961年大阪生まれ。大阪市立大学生活科学部住居学科卒業。1987年父の経営する(株)鉢の木入社、代表取締役就任。2006年「本屋ですが、ベストセラーはおいてません。」をキャッチフレーズに、カフェを併設する本と雑貨の店・スタンダードブックストア心斎橋オープン。2011年に茶屋町、2014年にあべの、そして2015年4月に、もりのみやキューズモールBASEにオープンしたまちライブラリーに併設するカフェとして新規オープン。本は扱うが本屋を営んでいる意識は希薄で人が集まり、人と人が直接触れ合う場を提供したいと考え、ジャンル問わず様々なゲストを招いてイベントを数多く開催。

 

福井盛太

SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS代表 1967年愛知県生まれ。91年早稲田大学社会科学部卒。 ビジネス誌『プレジデント』の編集者などを経て、2007年9月、SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS(SPBS)を設立。現在は、本のある暮らしを提案するセレクトショップ《SPBS》、毎日を特別なものにする、ときめくアイテムをあつめたセレクトショップ《CHOUCHOU》の経営、webメディア、雑誌・書籍の編集や店舗プロデュース、イベントやセミナーの企画立案を行っている。

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