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土橋正さんの“考える”ノート術で頭の中を整理しよう──ポイントは「時間・場所・道具」!

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土橋正さんの“考える”ノート術で頭の中を整理しよう──ポイントは「時間・場所・道具」!

左から、ステーショナリーディレクターの土橋正さんと、「Rollbahn Landscape」の開発・販売を手がける「DELFONICS(デルフォニックス)」グラフィックデザイナーの若本洋祐さん。

文具ウェブマガジン「pen-info」で、400種類以上のコラムを発表し、文具の商品企画、PRのコンサルティングなど多方面で活躍しているステーショナリーディレクター・土橋正さん。彼を監修に迎え、メモ帳の定番「Rollbahn(ロルバーン)」初の横型ノート「Rollbahn Landscape(ロルバーン ランドスケープ)」が、1月18日(金)に発売されました。SPBSでは、土橋さんをお招きし、いち早くそのノートを使った「思考を整理するワークショップ」を開催。アイディアを形にするための独特な思考法と、ためになるノート術を、「DELFONICS」の若本さん進行のもと、レクチャーしていただきました。

※本記事は、2019年2月1日にSPBS本店で開催したトークイベントの一部を構成したものです。

文=SPBS編集部
写真=北澤太地

“考える”ってどういうこと? 

──今回は「思考を整理するワークショップ」なので、まず“考える”ということについてお話を伺おうと思います。土橋さんにとって、ずばり、“考える”とは?

土橋:仕事の根本やスタートなど、骨組みを作るために非常に大切なことです。考えない仕事ってありえないと思うんですよ。例えば、私はウェブマガジンの「pen-info」でコラムを書くときや、お店のコーナーを作るときに「どういうコンセプトにしようか」「商品のセレクトはどうしようか」など、毎日、ありとあらゆることを考えています。

──考える上で必要なことや大事にしていることはありますか?

土橋:考えるときに必要なことは3つあると思っています。1つ目は、考えるための時間を持つこと。2つ目は、考えるための場所を整えること。3つ目は、考えるための道具を自分で決める、ということです。

POINT1:考えるためだけの“時間”を作る

──考えるためだけの時間ってどういうことですか?

土橋:わたしは以前、「考える」ということについて無頓着でした。いつも、電車の中、歩きながら、食事をしながら、というように、何かの“ついで”に考えていたんです。でも、ある日ふと「これはおかしいぞ。ちゃんと考えるための時間を用意しなければ」と思いました。

土橋さんが監修した初の横型ノート、「Rollbahn Landscape」。「DELFONICS(デルフォニックス)」の若本洋祐さんのオファーがきっかけで、土橋さんが監修することになったそう。

──考えるための時間を別に作るということですか

土橋:そうです。そして、制限時間を設けたほうがいいですね。1時間だとちょっと長いので、私は30分くらいにしています。そして、その30分はパソコンをスリープモードにしてメールが来てもわからないようにする、スマホは強制的に手の届かないところに置くなど、工夫をするんです。

スマホがすぐ手に取れるとついSNSに逃げてしまい、5〜10分を無駄にします。ですから、強制的にアンプラグドにして、考えるため“だけ”の時間を作るんです。人によって、集中できる時間帯は違うと思いますが、私の場合は朝がゴールデンタイムです。

POINT:2 考えるための“場所”を整える

──次は場所ですよね。土橋さんの、考えるための場所作りへの工夫はどのようなものなんですか?

土橋:わたしの机は白く、大きくて、中央にiMac、その隣に手帳スタンドが置いてあります。あとはほとんど何も置かずに、机の上の余白をとても大切にしています。なぜ余白を作るのかというと、余白を作ったほうが没入できるからです。「さぁ、考えよう」となったときには、考えるためのノートや関連資料だけを置いて、それ以外は何も置かない。

人の脳は、視界に入っているものを知らぬ間に情報処理しまっていると思うんですよ。脳のキャパシティは決まっているので、知らぬ間に見えてしまったものに5や10の力を使ってしまったら、本来の100の力を発揮できなくなってしまう。これは、すごく無駄なことだなと思っています。

例えば、考えようとしたときに「次にやろう」と思っている書類がちらっと見えているとします。そしてそれがクレーム処理などのすごく嫌な仕事だとしたら、その情報が少し目に入っただけで気になり、本来の考える回転が遅くなってしまいますよね。視界に入るものは、出来るだけ少ない方がいいんです。

つまり、視界に余白を作ると、「考える」ことに没入できる。人間は何もない空間の方が物事が捗るということを、本能的に知っているんだと思います。何かを新しく買うとなるとお金がかかったり色々と面倒ですが、机の上からものを無くすだけなら決意さえあれば出来る。今日からでも実践できることなので、おすすめです。

POINT:3 考えるための“道具”を自分で決める

──3つ目の道具ですが、土橋さんは現在、どのような道具を使っているのですか?

土橋:私の場合は、アナログの文具であるノートとペンです。ノートは今は「Rollbahn Landscape」、ペンは黒鉛芯の筆記具である鉛筆、もしくはシャープペンを使います。

──黒鉛芯の筆記具に何かこだわりがあるんですか?

土橋:黒鉛芯の筆記具は、筆圧を変えるだけで、良いアイデアなのか良くないアイデアなのかを書き分けられるんです。すごく良いアイデアがあれば強くグリグリと書いて、そこまで良いという自信はないけど「とりあえず書いてみよう」というときには薄く書くなどと、黒鉛芯はニュアンスを表現できる。

ボールペンは一定の筆跡を書くことを得意としていますが、ニュアンスを表現するのはあまり得意ではないと思います。ですので、考えるという行為には黒鉛芯のほうが断然おすすめです。そもそも、考えるというのは、頭の中の“不確かなこと”を“確か”にしていく行為ですから、“不確かさ”の度合い、つまり、ニュアンスを表現できたほうがいいんです。

思考整理の奥義「分割モード」で、自分自身と向き合う。

──考えるための環境が整ったら、あとはそれをノートに書き出していくわけですが、土橋さんはその際、「分割モード」という独特な方法を使用されていますね。

土橋:はい、2分割、3分割、4分割など、状況によって使い分けています。

土橋さんの思考法「分割モード」。2分割でメリットとデメリットを書き分ける、4分割で起承転結をまとめるなど、目的に応じた使い分けを行っている。写真は、「将来の夢」を「趣味」「家庭」「仕事」に3分割した、カテゴリー分けに特化したモード。

──何がきっかけで、この「分割モード」が誕生したのでしょうか?

土橋:自分でも気がつかないうちに使っていたのですが、最近、何に影響を受けたのかを思い出したんです。皆さん、「バウハウス」ってご存知ですか? 1919年にドイツに設立された、有名な総合芸術学校です。昔、これについて色々と調べていた時、何かの本でこの学校のカリキュラムを見たんです。日本だと、普通は大学のカリキュラムって、1〜4年生まで勉強していくことが順に表にまとまっているイメージだったんですが、バウハウスのそれは“円”だったんです。

「バウハウス」のカリキュラムでは、一番外側が半年間の基礎教育、それより内側は3年間の実技教育となり、どんどん中央に進んでいくと最終的に中央の「建築」に到達する。バウハウスの創設者で建築家のヴァルター・グロピウスは、「すべての造形芸術が最終的に目指すところは完成した建築にある」と提唱していた。(図 : Bauhaus-Archiv Museum fur Gestaltung(バウハウス アーカイブ ミュージアム)より)

当時、本を読んだときは「“円”で表現するなんて変わってるなあ」くらいにしか思わなかったんですが、なかなか独特だったので、記憶の片隅に残っていたんでしょうね。それが発展して「分割モード」になったんだと思います。

──たとえば、今日のワークショップのプログラムも、スタートから終わりまで、円で時間ごとに区切って進行をまとめてありますね。確かに、非常に整理されてわかりやすいですよね。

土橋:ノートって、「上から下へ」「初めから終わりまで」という流れに沿って書いていく、という考えが通例ですが、思考を書き起こす場合は、もっと自由でいいと思います。今紹介した「分割モード」の他に「フリーモード」というのもあります。これは文字通り自由に書いて行く使い方です。考えるテーマについて思いつくまま書いています。ノートのどこから書いてもいいんです。強調したいアイディアは大きく真ん中に書いて、そうでもないものは端の方に小さく書く、といった具合に。誰かに見せる必要はないので、綺麗にわかりやすく書こう、という遠慮はいりません。

そもそも、考えるというのは自分自身と向き合う行為です。ともすると、私たちの予定というものは、「いつまでに○○をする」「○○さんとミーティング」といった、誰かのためにやっていることになりがちです。なかなか考える時間が取れず、ついつい何かのついでに考えてしまうんだと思います。ですから、自分自身のために、意識的に時間をつくって、環境を整えることが大事です。そして、紙の上に考えを書いていくことで、不確かなことが「手がかり」あるものになって、ものごとを前へ進めていけるのでしょう。

 

土橋 正(つちはし ただし)さん

ステーショナリーディレクター。文具ウェブマガジン 「pen-info」では、400種類以上のコラムや、国内外のショップレポートなど様々な情報を発信している。HP>>

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