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“わかりやすい表現„のその先にあるもの。「Noritakeスタイル誕生のひみつ」

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“わかりやすい表現„のその先にあるもの。「Noritakeスタイル誕生のひみつ」

『18 MILES OF BOOKS 果てしのない本の話』は、ライフスタイル誌『& Premium 』(マガジンハウス) の連載企画。岡本仁さんの洒脱な文章とイラストレーターNoritakeさんのシンプルでメッセージ性に富んだ挿絵を愉しめるとあって、雑誌の創刊時から数多くの読者の支持を得ています。

SPBSでは、昨年、この連載をまとめた『MORE THAN YESTERDAY』(Noritakeさんの自主出版)の発売を記念したNoritakeさんのトークイベントを開催しました。編集者・柴田隆寛さんが聞き手となり、『MORE THAN YESTERDAY』や、過去の作品集、最近のお仕事に関してお話を伺うことでNoritakeさんワールドの深淵を覗いてみよう!という試みでした。

これからイベントの模様を、お伝えします。

 

文=柴崎研

 

■写実的な画を描いていました。

 

柴田:編集者の柴田と申します。今日はNoritakeくんと『MORE THAN YESTERDAY』の出版記念ということで、お話をしていきたいと思います。Noritakeくんとの付き合いは、ぼくが『HUGE』(講談社)という雑誌の編集者だった頃からで、おおよそ10年ほどになります。今日は、そんな縁でお話を伺っていきます。よろしくお願いします。

 

Noritake:よろしくお願いします。出会った頃のことは、もうあまり覚えてないですね(笑)

 

柴田:思い返すと、Noritakeくんと仕事をすることになるきっかけは、2008年頃にまで遡ります。青山の「Paul Smith SPACE」というところで大きな個展をNoritakeくんがやっていたんですが、それを見たときに作品の世界観に圧倒されて。「いつか一緒に仕事をしたいな」と思うようになりました。

そのあと、『HUGE』という雑誌で岡本仁さんと一緒に本にまつわる連載をやることになり、文章に添えるイラストをNoritakeくんにお願いしてみたいと岡本さんに相談しました。そしたらすごい偶然なんですが、岡本さんもそのときちょうどNoritakeくんに別の仕事を頼んでいたタイミングだったんですよね。

 

Noritake:そうですね。たぶん、千駄ヶ谷のコーヒーキオスクの立ち上げのためのイラストだったと思います。

 

柴田:そういったご縁で、最初にお仕事をさせていただくことになりました。今はもう『HUGE』という雑誌はなくなってしまったんですけど、掲載する雑誌を変えて『&Premium』に連載を引っ越しし、それが今も続いているという形です。

 

Noritake:『HUGE』で連載を始めた頃は、ネタが全然磨かれてなかったというか、毎回締め切りに慌てながら描いていました。岡本さんの文章の表現に悩むこともあって、少し窮屈で弱い挿絵になっていたんです。

 

柴田:当時の『HUGE』での連載が『果てしのない本の話』というタイトルで1回書籍にまとまっているんですが、これを見返すと絵のタッチが今と全然違いますよね。けっこう写実的というか。

 

Noritake:最も悩んで描いていたときですね。このときは、けっこう念入りにラフを描いていました。

 

柴田:そうでしたね。それが次第に自由度が増していって、スタイルがちょっと変わりましたよね。

 

Noritake:はい。ひらめきを大切にするというか、自分でも理解できないような形を思うままに書いてみたりして。段々自分の中で描き方や考え方が変化していきました。この変化は、連載以外の仕事にもけっこう表れていて。変遷をまとめてみたら面白いかなと思ったんですよね。

 

 

柴田:そこで1枚、1枚で成立するものだけで実際に1冊作ってみたのが[1] 、今回の『MORE THAN YESTERDAY』ということですね。

 

Noritake:はい。普段はもっとテーマを固めてから作るんですが、今回は少し気軽な気持ちで作ってみました。

 

■自分ルールを表現した「SPBSでの原画展」

 

柴田:『HUGE』の連載開始時は作画に悩まれてましたが、『&Premium』で再スタートしたときは、どうだったんですか?

 

Noritake:『&Premium』で描くかどうかは正直迷いました。単発の仕事なら、1枚の絵を描くのに10日以上かけるのは普通のことですが、連載だとそんなに時間をかけられない。

 

柴田:もっと瞬発力が必要。

 

Noritake:はい。でもその瞬発力は、単発の仕事をメインにして描いていくなら要らないスキルなので、今後の仕事を考えてこの連載を本当にやる意味はあるのかと。けど、やったら何か新しいモノが生まれる気がして、受けることにしました。

 

柴田:そうですね。実際生まれたと思います。

 

Noritake:そしてその頃から、SPBSさんで毎月1枚展示する原画展をやり始めました。基本的に僕は、作品の中の挿絵の描かれたページはネットにあげないんですね。それは買った人しか見てはダメだと思っているので。けど、1枚絵だったら載せても、自分なりに納得できるというか。その絵だけを見ていいなと思ってもらえたり、それをきっかけに本を買ってくれたり。SNSにあげたらネット上でファンが増えたりするのかなぁ、とか、店頭で見られることとSNS上で見られることをメリットにしてみようとやってみました。

 

柴田:確かに。

 

Noritake:そういう自分ルールみたいなものがあったんですが、SPBSさんがこれに賛同してくれて、ぼくのやりたい形での1枚だけの原画展を始めることができました。それが気がつけば2年くらい続いてます。

 

 

■課題解決としての創作術

 

柴田:次は具体的に作品を見ながら、お話伺っていきたいと思います。まずはこの、東急電鉄の広告。街ですごくよく見かけますよね。

 

Noritake:そうですね。ありがたいです。

 

抜粋:いい街いい電車プロジェクト| Noritake / のりたけ

 

柴田:こういうものって、どういう工程を経て完成していくんですか?

 

Noritake:最初に粗いラフが出てくるんですが、そこで顕在化した課題をどんどん解決していくような形です。髪型や目つき、体型など、余分な要素を診断する視点が自分の中にあって。それらを全部解決したらこうなった、という感じですね。たとえば、実際はここに(腕のところに)腕章がついていたんですが、入稿時にはとりました。

 

柴田:ある意味、具体的なものを単純化していく作業?

 

Noritake:単純化というか、間違っているところを全部とってあげるというイメージに近いです。これは公共の広告なので、興味のない人がパッと見たときの不具合や違和感をなるべくなくそうと気をつけました。

 

柴田:なるほど。公共のものとは描き方のタイプが違う仕事もあるんですか?

 

Noritake:いろいろありますけど、ぼくのメインの仕事はこちら(東急のポスター)の方向になってますね。そういう表現が必要な場が増えましたし、ぼく自身テイストをそちらに寄せていっている部分もあります。

 

柴田:たしかに、そうですよね。誰が見ても不快に思わない、当たり障りのない表現の需要が世の中的にも増えましたよね。

 

■イラストを見られる場所を増やしたい

 

柴田:クライアントワークと違う、個人的な創作活動の方も見たいなと思うんだけど。

 

Noritake:いま、ほとんど個人的なワークがないんですよね。クライアントワークと、自分が描きたいものの乖離が少ないので、それでいいかなと。全部自分でやるより、クライアントからいいお題をもらえたりしますし。

 

柴田:そうですね、たしかに。でも結構個展もやってますよね?

 

Noritake:1つのクライアントワークのイラストを、国内外たくさんの場所で見れるようにしようと思って、いろいろやってます。イラストを増やすのではなく、見られる場所を増やす。

 

柴田:そういう広げ方というか、グッズもそうだと思うけど、イラストの露出を増やす手法がけっこう上手ですよね。

 

Noritake:1個ちゃんといいものが描けても、それで「はい終わり」だと勿体無いので。その1個を、どれだけたくさんの人に見られても耐えられるように描こう、っていうのが最近のテーマです。なるべく経年劣化しない、建築でいうとボロ屋にならない頑丈な建物をつくろうとしている感じです。

 

柴田:そこに通じる話かもしれませんが、Noritakeくんの絵って、白黒ですべて成立しているものが多いですよね。ここの部分でなにか意識していることってありますか?

 

Noritake:僕は、その絵がモノクロで完成することしか目指していないんです。モノクロの表現で伝わるまでとことん描いて、ダメだったらもうダメなので。根底の部分ではそういう思いをもってやっていますね。

 

柴田:なるほど。今日は面白い話をたくさんありがとうございました。

 

Noritake:ありがとうございました。

 

***『MORE THAN YESTERDAY』は、SPBS ONLINE SHOPからご購入いただけます。

 

<プロフィール>

Noritakeさん

イラストレーター。広告、ファッション、書籍、プロダクト制作などを中心に国内外で活動。シンプルなモノクロドローイングを軸に様々な企画に携わる。著書に『秘密基地の作り方』(飛鳥新社)、『えいごのもと』(NHK出版)などがある。また、集英社文庫『よまにゃ』イラスト、東急電鉄「いい街いい電車プロジェクト」イラスト、資生堂IHADAパッケージなどに携わる。(www.noritake.org

 

柴田隆寛さん

編集者。講談社『HUGE』の編集者を経て、2013年マガジンハウス『& Premium』 のエグゼクティブディレクターに就任。創刊から約3年半にわたり同職を務める。2015年に編集事務所Kichiを開設。雑誌・書籍・web・広告・イベントのディレクションなど、ファッョン・ライフスタイルの領域を中心に活動しながら、クリエイティブコミュニティ「MOUNTAIN MORNING」のメンバーとしても活動中。主な編著書に『TOOLS』、『リサ・ラーソン作品集』、『ビームスの神戸』、編書に『柚木沙弥郎 92年分の色とかたち』『恐竜人間』(写真・藤代冥砂、恐竜制作・下田昌克、詩・谷川俊太郎)『LIFE CYCLING』などがある。(www.mountainmorning.jp

 

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