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「いが」と「いか」の、平行線選書録、第一弾は……「平成」!

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「いが」と「いか」の、平行線選書録、第一弾は……「平成」!

 

スタイリストの伊賀大介さんと、“エア本屋”「いか文庫」店主にしてSPBS本店店長・粕川が、同じテーマでそれぞれ選書。なぜその本を選んだのか、熱い(暑い)思いを同時に手紙で送る「平行線(オルタナ)選書録」、第一弾のテーマは、ずばり「平成」。

「平成」と聞いて、みなさんはどんな本を思い浮かべますか? 幾多の自然災害に、社会を震撼させた大事件、バブル崩壊、世紀末、インターネットの急速な普及による生活の変化など、いろんな出来事がありました。90年代と00年代でカルチャーが異なっているのも、考察するには興味深いポイントです。

90年代に多感な10歳代を過ごした伊賀さんと粕川。生まれた場所も、育った環境も全く異なる二人が「平成」を振り返る時、一体どんな本の記憶が蘇るのでしょうか? 「平行線」と書いて「オルタナ」と読む、どこまでも自由な選書企画、始まります!

 

文=伊賀大介、粕川ゆき
写真=SPBS編集部
ロゴデザイン=坂脇慶

 

 19歳で出会った大人の世界の入り口

伊賀さん

 

平成を振り返る時、「テレビドラマ」は外せないテーマだと思っているんですが、伊賀さんはハマったドラマ、ありますか? 私はいくつもありますが、その中でも特別なのは、やっぱり『ロングバケーション』! その小説版が今回おすすめしたい一冊です。

 

『ロングバケーション』が放送されたのは、1996年、私が19歳の時でした。結婚式当日に花婿に逃げられた30歳のモデルと、夢を諦めようとしている24歳のピアニスト、二人がひょんなことから同居することになり、上手くいかない日々、“長いお休み”を共有していく……というストーリーは、ご存知かもしれませんね。

 

『ロングバケーション』北川 悦吏子(1996年、角川書店)

 

当時の私には、物語の設定、舞台、音楽、何もかもがキラキラ大人びて見えて、登場人物やセリフにもとにかく魅了されまくり、何度も何度も繰り返しドラマを観ていました。だから本に書かれているセリフも、言い方とかタイミングとか、表情まで思い出しながら読み進めることができて、それはそれは楽しかったんです!

 

それと、出てくるアイテムの懐かしいこと! 「My Little Lover」(女子力高い子のカラオケの定番だったな)、フローズンストロベリーダイキリ(初めてのお酒はこういう甘〜いやつだったな)、ベンフォールズファイブ(ラジオで知ってCD買ってエンドレスで聴いてた!)……と、私の「平成」を語れと言われれば、自ずと出てくるものたちばかりです。

 

ドラマを見ていた当時は、自分よりも世代が上ということもあって、登場人物たちに共感することはあまりなかったんです。ただ、「かっこいい人ばかりだな」「こういう大人になりたいな」「こんな恋愛できたらいいな」っていうハマり方だったんです。
でも、彼らより年上になった今、文字で再び味わってみて、彼らの苦悩や喜びをリアルに共感しながら入り込むことができたので、また違った衝撃を受けました(特に420ページあたり、女の私にはやばいセリフが……)。

 

「これはすごい物語だよ!!!」って、伊賀さんと20年前の自分に、暑苦しく語りたい!!! です。その前にぜひ一度、読んでみてください!

 

いか文庫店主、SPBS本店店長 粕川ゆき

 

ロック / 歌謡からヒップホップへ。変化の瞬間を捉えた超・名著。

粕川さん

 

初っ端から「平成」って!! 短いようで長かった、この30年間。

 

ワタシは昭和最後の小学生で、平成最初の中学生でした。あの冬は、従兄弟とずーっとゲームしたり、プロレス観たり、江戸川乱歩読んだりしていました。そんなガキが、今じゃ人の親になり、仕事だ呑みだ、って毎日ドタバタやってんだから不思議なモンですよね。  

 

さて、この「平成」ってお題になりましたが、一冊おススメするなら、写真家・作家・編集者の都築響一さんの『夜露死苦現代詩』を推したいです。

 

『夜露死苦現代詩』都築響一(2010年、筑摩書房 ※初版は2006年、新潮社より)

 

ま、都築さん本なら、言わずと知れた名著『TOKYO STYLE』(2003年、筑摩書房 ※初版は1993年、京都書院より)や、あの狂ったバブル時代を当事者ならではの体験談と、引き目線で面白がっている『バブルの肖像』(2006年、アスペクト)あたりが、平成というか90年代を体現してるなー、とは思ってるんですが、この「夜露現」の何が面白いかといえば、昭和〜平成で、時代を牽引する表現の仕方が、完全にロック / 歌謡からヒップホップに移ったな、っつーのがありありとわかる感じです(これは世界マーケットだけじゃなく、もちろん日本でも)。

 

この本の前書きにもありますが、昭和のガキはロックのフォームにのっとって 社会への反抗を気取ってましたが、今じゃソレって完全マイノリティーな訳で。
平成終わりのガキたちは、世界最先端の表現をサブスク(サブスクリプションサービス)や動画サイトで体感し、テメェの不満とか想いを言葉をリリックに昇華して、自分の言葉で吐くのが当たり前になったってのが、最も潮目が変わったなーと感じる所です。

 

都築さんはフェアで、面白い事や新しいカルチャーが出てきた時に、全く色眼鏡をかけず、面白がれる所が、ホントカッコいいオジさんだなーと、毎度思います。

 

とにかく、この本は相田みつをさんを正当に評価した(詩だけでなく、美術館の作り方まで含めて!!)ってことだけで、永久に語り継がれるべき超・名著だと思ってます!

 

俺の平成を、是非!!!

 

伊賀大介

 

 

ここでご紹介した『ロングバケーション』『夜露死苦現代詩』はWEBでもお買い求めいただけるほか、SPBS本店にて同時開催の「いがいか文庫フェア」でもお取り扱い中です。フェアでは、この二冊だけでなく、伊賀さんと粕川が選ぶ「平成」の本として、『90年代のこと』(夏葉社)、『ファイト・クラブ』(早川書房)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)などもあわせてご紹介しています。
また、皆さんにとっての「平成」な一冊も大募集しています! ぜひ、「#いがいか文庫」でSNSに投稿してみてくださいね。

 

伊賀大介(いが・だいすけ)さん

1977年 、西新宿生まれ。96年より熊谷隆志氏に師事後、99年、22才でスタイリストとしての活動開始。雑誌、広告、音楽家、映画、演劇、その他幅広いフィールドで活躍中。 [写真:佐内正史]

 

粕川ゆき(かすかわ・ゆき)

1978年、山形県生まれ。実店舗の無い“エア本屋”「いか文庫」の店主として活動するほか、SPBS本店店長も務める。書籍、雑貨のセレクトのほか、フェアやイベント企画など、店舗全体の運営に携わる。

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