本と編集の総合企業

本と編集の総合企業

花も障がい者も「もったいない」! もてる力を生かす事業は、おしゃれな花屋&カフェから

タグ

カフェが併設されたお花屋さん、ローランズ(LORANS)原宿店

障がい者は、学校を卒業しても働けない? 一度精神疾患を経験すると、社会復帰は難しい? そんな社会課題を、地に足を着けた花の事業で粛々と解決しようと挑んでいる福寿満希さん。現在都内3か所に店舗を構える花屋のほか、花の廃材を織り込んだ再生紙をつくるなど、障がい者雇用の場を広げる体当たりの起業ストーリーは続きます。
 
(前編はこちら)
 
取材・文=SPBS編集部・K子
写真=横尾涼

この人たちが働けないなんて、もったいない!

──以前スポーツマネジメントの会社で野球選手の社会貢献活動に関わって、そこからソーシャル・ビジネスに興味を持たれたとのことですが、もともと障がい者雇用をしようと思っていたんですか?
 
福寿:いえ、最初からそれを目指したわけではないんです。大学のとき、教職免許取得のための授業をとっていたんですが、特別支援学校にも実習に行って、初めて障がいのある子ども達と触れ合ったんです。彼らのひたむきな姿勢とか、一生懸命なところか、愛らしさとかがすごく印象的だったんですけど、そのとき一番衝撃を受けたのは、彼らの15%しか卒業後に仕事に就けない、ということでした。教育現場自体は、教師やサポートがついて、結構充実しているな、という印象だったんですが、卒業したらいきなり社会から取り残されてしまって、引きこもる人も多いそうです。それがすごく残念だし、この子ども達が活躍できないなんてもったいないなと思いました。
 
会社をつくって2年目の冬の終わり頃、障がい者施設にお花のレッスンに行く機会があって、そこでまた障がいのある方と関わることになったんです。みなさん花のギフトの製作に一生懸命に取り組んでいて、その姿がすごくうれしくて。
 
その時みなさんとお話をすると、やっぱり働いてない方も多くて。一度精神疾患を患ってしまうと、受け入れてくれるところがないというお話も聞きました。波があるので、ガタッときた時に外出できなくなっちゃうこともあるんですけど、そうでない時はみなさんすごくしっかりしてるんですよ。こんなにも活躍できる人達が、がもったいない! と思って、以前特別支援学校の子どもたちと関わったことを思い出して、私だからできるお花屋さんの形って、もしかしたらこういう、もっともっと活躍できるはずの人たちのために、雇用をつくっていくことなんじゃないかって思ったんです。
 
──なるほど、そうした出会いがつながって、障がい者雇用に取り組むことになったんですね。
 

ローランズ 代表・福寿満希さん

 

障がい者の出入りを拒否される!?

福寿:はい。もともと花屋というより、受注したアレンジをつくるアトリエとしてやってきたんですが、いずれ都心型のお花のギフトサービスを広げていきたいと思っていたので、そこから障がい者雇用をスタートしようと思って準備を始めました。
 
当初は自宅近くに小さなアトリエがあって、日々の注文を受けてアレンジをするゴチャゴチャした狭い場所でした。障がい者の雇用をするためには、ある程度広さも必要なので、思い切って都心の赤坂に100平米くらいの物件を借りて、新しいアトリエを準備していたんです。1店目の川崎の店舗は、ひょんなところから湧き出たお話からできたお店だったんですけど、今度は自分の力で目指していた都心型のおしゃれなアトリエをつくろうと思って。
 
でも、当時はまだ障がい者の仲間を通年雇用できるだけの資金がなかったので、またそこで「じゃあどうしたら雇用できるんだろう?」って調べたら、「就労継続支援A型」という制度があるのを知って、まずはそこの制度を活用してみんなと働きたいと思いました。レッスンで出会った方を最初に一人従業員として受け入れて、一緒に赤坂のアトリエの開設を準備して、物件を借りて、内装も工事して。
 
ところが、いざスタートだというときになって、ビルのオーナーさんが、就労支援事業をスタートするための書類にずっとサインしてくださらなくて、そのまま1か月過ぎて、3か月過ぎて……。事業が始められない状態が続いたんです。多分、障がい者の方にこのビルに出入りして欲しくない、という思いがあったからだと思うんです。そうは直接は言われないんですが、そんなニュアンスというか……。
 

*企業等に就労することが困難なしょう害のある方に対して、雇用契約に基づく生産活動の機会の提供、知識および能力の向上のために必要な訓練などを行う国の制度

 
──えっ! でももう、お店をつくっちゃったんですよね!? お金かかってますよね!?
 
福寿:そうなんです。もう赤坂にアトリエをつくってしまっていて、「どうしよう」っていう感じで……。オーナーさんや管理会社にも何度も交渉したのですが、やっぱりサインをいただけなくて。すでに開店資金が出てしまっていたので、ここで一度引き上げてもう一度貯金をして時期を改めて仕切り直しをするか? でもメンバーは揃っているし、ここで仕切り直しをするのもどうなんだろう? ってすごく迷いました。
 


季節の花束をはじめ、胡蝶蘭、観葉植物、プリザーブドフラワーまで取り揃える

再起の拠点がアトリエではなく“店舗”になった

──それは、経済的にも、気持ち的にも厳しかったですね……。
 
福寿:はい。悩んだ末、一度都心型のアトリエを諦めて、規模感を少し抑えて、そのときの手持ち資金の範囲でできるアトリエをスタートしようと、もう一度物件を探し始めました。そこで見つかったのが、2店目となった駒込の1階だったんですよ。
 
もともとは店舗展開をすることはあまり考えてなかったんですけど、“なんとかこの坪単価で”と探して出会ったところがたまたま1階だったので、アトリエではなく「店舗」になった、っていう流れだったんです。
 
──そうなんですね。
 
福寿:もともと作りたかったのはアトリエだったし、単なる店舗としてではない、花の再生紙やイベントなどのプロジェクトをやっている会社なので、そんなに店舗を増やす予定はなかったんです。アトリエだと、受注した分だけ仕入れるので、お花のロスも少なくできるんですけど、店舗だとお花の廃棄量も少し増えてしまいますし。
 
でも、店舗にしてよかった面もあります。店舗にしたことによって、私たちの会社のことを知ってもらうきっかけが増えました。たまたまお花屋さんに来た人とか通りすがりの人にも知ってもらえるようになりましたし、お花の再生紙の注文も増えました。
 
お店を通して私たちの考え方やプロジェクトを知ってもらえますから、考え方を知ってもらうためにその場所があると考えると、少しゴミは出してしまうんですけど、それも間違いじゃないのかなと思いました。
 
──お店が事業全体のインターフェースなんですね。
 
福寿:そうなんです!
 
──うちも同じです。うちの会社って一見「本屋」に見えるんですけど、本屋はいろいろな事業の一つで、やっていることは、知性とか感性とか情報とかモノとか、いろんなものをつなぐ「編集」なんです。そういうコンセプトって、形がないから伝えにくいし、パッと理解してもらうのが難しいですが、「ああ、あの本屋ね」というのは認識してもらえます。インターフェイス、店舗って大事ですよね。
 
福寿:本当にそうですね(笑)。人に存在を知ってもらうという、実はすごく難しくて大変なことが、お店があることで「ああ、あそこの?」みたいな感じになるので。広告のような位置付けでお店があるというのは、一つのやり方かなと思います。
 
──その駒込店が軌道に乗って、次はいざ原宿店、という感じだったんですか?
 
福寿:実はまた、原宿のお店もひょんなご縁からなんです。もともと赤坂でアトリエをスタートしたいと思っていたのにそれが叶わず、夢破れて駒込の物件を見つけて……その行程を、日本財団の方が知っていて、声をかけてくれました。もともと、財団として障がい者の働く環境を改善しようと活動されていて、一緒に取り組める事業者を選抜していたみたいなんです。
 

カフェではフルーツや野菜たっぷりのスムージーを始め、グルテンフリーのスープやオーブンサンドなどのヴィーガンフードを提供(写真:ローランズWEBサイトより)

 
この原宿の物件、オーナーさんが「社会的活動のために」と日本財団に生前贈与されたんです。ちょうどそれが、この店舗をご紹介いただいたタイミングだったんですが、2016年の11月に財団の担当の方から「原宿にある店舗の1階が空く。都心型で挑戦しますか?」というお話をいただいて、とても驚きました。それで、1週間以内に連絡をくださいって! その当時、駒込が立ち上がってまだ半年ぐらいのタイミングだったので、店舗を回すのに一杯一杯で、いい話だけど私たちにできるだろうか、と……。
 
──1週間で決めなきゃいけない(苦笑)。
 
福寿:もう、1週間フルに使って悩みに悩んだ結果、「こんなチャンスはない! やります!」ってお返事しました。なので、店舗を出すつもりがなかったのですが、走り続けていたら、川崎、駒込、原宿と、2年間で3店舗もできてしまいました(笑)。
 
──すごいです(笑)。
 

一つひとつの店舗を、強くしたい

福寿:今は川崎の店舗は天王洲アイルに引っ越して、今年10月に駒込店を原宿店の3階にお引越しして、原宿と、天王洲の2拠点に集約しました。
 
──本来アトリエになるはずだった駒込のお店が、実際に原宿の3F に来てアトリエになるわけですね。
 
福寿:そうですね。先ほど言ったインターフェースというか、広告になる場所をここ原宿と天王洲に。店舗数は減るんですけど、集約した分、残った店舗を強くしたいなと思っていて。広告となる場所を、もっとインパクトのあるものに変えていきたいなと考えています。

──強くする方策は、どんなことを考えているんですか?
 
福寿:今までは「100人雇用」を目指してやっていたんですけど、ちょっと考え方を変えようかなと。今従業員が約60名で、そのうち45名くらいが障がい枠スタッフなんですけど、まず100人! を目指すと、短時間のスタッフが増えて、ならすと給与水準が低くなってしまうんですよね。全国的に障がい者雇用は進んできたんですけど、雇用の質は上がっていってないよね、というところが次の課題だと思っていて。
 
今すごくありがたいことに、障がい者雇用の進んだ職場として、たくさんの見学者の方が当社にいらっしゃるんですが、ここから何を持って帰ってもらうのかを考えたときに、「緑のある明るいきれいな職場環境ですよ」ということだけじゃなくて、雇用の質も高めていく必要があるんだ、ということを伝えていきたいんです。
 
なので、一度雇用人数を増やすという考え方ではなく、今いるメンバーの働く時間や、福利厚生や、給与面など、雇用の質を上げて、一般と変わらないぐらいの水準にした状態を見てもらって、それを見学した人たちがそれぞれの現場に持ち帰って広げてもらいたいな、と思っています。
 

 

障がい者雇用を増やすことは、自分だけでやらない方が早い

──確かに、福祉作業所なんかの給与レベルは一般と比べてケタが一つ違いますし、きちんと自立できる職場の例をつくるのは、大事なことですね。
 
福寿:そうなんです。それには一社で障がい者雇用に取り組むよりも、いろんな会社が各地で展開してくれた方が、全体で見たときの成果としては大きくなるんじゃないかなと思います。事業をやっている身としては、会社の規模が大きくなれば箔が付くんですけど、なんかそこよりも……。
 
──目的はそれじゃない、
 
福寿:かなあと。ちょっと私も勘違いして、自分の事業を大きくしようと思ったときもあったんですけど、今は質の高い、中身の濃いことを、じっくり小さくてもやっていきたいなと思っています。
 
──実際、いろいろな方が御社を見学に来られて、同じような考えで事業をスタートした人はいますか?
 
福寿:いらっしゃいますね。こんな感じの場所をつくりたいと言って、私たちを参考にしていただき、実際に事業を始めた方とか、それまで障がい者雇用は完全にコストだと思っていたけれど、その考え方を変えていくべきだと気がついた、と言ってくださる方とか。大企業だと、資本力もあって、できることの規模も私たちと全然違ったりするんですけど、例えばいま、ある上場企業さんで、会社の中にお花屋さんを作って障がい者雇用をすることなどを一緒にやらせていただいています。
 
──なるほど。徐々に輪が広がってきていますね。
 
福寿:企業の中でお花を通じて障がい者雇用ができることを提案させていただいたくと、いろいろなことが実現していくんです。いままで「自分たちで全部やらなきゃ」と思っていたことが、いろんな企業さんの持てる力を合わせていくと、もっと膨らんで、全部を自分がやらなくてもいいんだ、逆に自分がやらないほうが早い場合もある、っていうことがわかりました。自分の変な見栄なんか邪魔だなと思えてきて。
 
──私、知的障がい者のアートがすごく好きなんです。彼らの表現には、うまく描いてやろう、みたいな見栄が全くない、その純度の高いパワーがすごいなと思っていて。福寿さんは、普段、障がい者の人たちと触れていることで、自分の中の見栄が取り外しやすくなったと思いますか?
 
福寿:それはあると思います! 一人ひとりが違うことを「それでいいんだよ」といつも伝えてるんですけど、ふと、それは自分にも当てはまる考え方だと思ったんです。自分だって、人と違っていい。伝えていくごとに、「あれ? なんかそれって障がいあっても、障がいと診断されてなくても、一人ひとりが違うということは変わりないな」と思うようになって。
 
いろいろな企業さんの中で雇用の「障がい者スタッフ」という言い方をやめて、「チャレンジスタッフ」とか「ユニークスタッフ」とか言葉を工夫されているので、私たちもそういうの作りたいよね、「障がい者枠」って言いたくないよね、「チャレンジ」「唯一無二」「ユニーク」、いいよね、とみんなでディスカッションしたんです。それで、チャレンジしているのも、唯一無二なことも「障がい者だけじゃなくて、私たちみんなそうだよね」ということに気がついて。
 
あなたはあなたのままでいいし、周りを気にしなくていいんだ、唯一無二なんだよということを、障がい者のスタッフと接して支え合っていく中で、逆に「あなたもだよ」って教わったような気がします。
 

 

<プロフィール>

福寿満希(ふくじゅ・みづき)さん
1989年石川県生まれ。順天堂大学でスポーツマネジメントを学び、卒業後はマネジメント会社でプロスポーツ選手の社会貢献活動の企画運営などを経験。花に関わる仕事を立ち上げ、2013年に株式会社LORANS.を設立。ホテルロビーの装飾やイベントのフラワーデザインなどを行う。現在都内で2つの花屋&カフェを運営し、障がい者雇用にも積極的に取り組む。行政や企業などと組んだ花のイベントの実施や、花を使った再生紙の製作、企業の障がい者雇用のプロデュースも手がける。

この記事のタグ

友だちに教える