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“みんなのうた”はどこにある?〜細分化される音楽についてtofubeatsさんに聞いてみた〜

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“みんなのうた”はどこにある?〜細分化される音楽についてtofubeatsさんに聞いてみた〜

tofubeatsさん(音楽プロデューサー/DJ)とSPBS編集部・西村

 
ミレニアル世代のSPBS編集部員 西村が、社会に対する疑問を投げかける企画、「@spbs_chatroom」
時代の変化を、専門家たちはどのように肌で感じているのか。ミレニアル世代の武器である“チャット”を使用した対談で、考えを掘り下げていきます!
今回のテーマは、「“みんなのうた”がない歌謡界」
かつて華やかであったJ-POP界は、今では多様化する音楽の一つのジャンルと化しています。
「家族や仲間はもちろん、知らない人同士でも一緒に歌える“みんなのうた”。人々をつなげるツールとして機能していた“みんなのうた”が、今の時代にも必要じゃないのかな?」
そんな疑問から、音楽業界で多岐にわたるご活躍をされているtofubeatsさんに取材を依頼! 時代を俯瞰して見ているtofubeatsさんが、今考えることをお聞きしました。
 
取材・文・イラスト=西村華子(SPBS)
 

マスメディアの衰退と細分化されていく音楽

 


西村
tofubeatsさん、
本日はお世話になります。
SHIBUYA PUBLISHING&BOOKSELLERS編集部の西村と申します。
よろしくお願いします。


tofubeats
よろしくお願いします!


西村
早速ですが、今回のテーマは“みんなのうたがない歌謡界をどう思うか”です。
そもそもこのテーマを聞いてどう思われましたか?


tofubeats
難しい質問ですよねこれ…。


西村
(うぅぅ、)そうですよね(笑)。


tofubeats
自分的には本当に“みんなのうた”がなくなっただけで、もうちょっとセクターに別れてそういうものは残っていると思います。


tofubeats
アニメファンとか、ロックファンのように、さらにもうちょっと細分化されていたりするとは思いますが。


西村
日本の音楽って、割とジャンルが増えてニッチマーケット化してきていますよね。


tofubeats
自分的にもそれでいいとは思います。皆が自分の好きなものを好き、と言って良いとされるのはとてもいい時代、だと思っています。


tofubeats
自分の音楽もドームで数万人を…みたいなのを想定していませんし(笑)。


西村
(tofubeatsさんがドーム、確かに違和感…(笑)。)


西村
そうですよね(笑)。


西村
最近だとカラオケに行っても、歌う曲ってだいたいみんな知らなかったりしますよね。それこそ好きなものを選んでいる感じです。


tofubeats
そういう意味で言うと、カラオケとか最初からすごく苦手なんですよね…。


西村
なんだかわかる気がします(笑)。


tofubeats
趣味が合うのかわからない人と一体感を感じるのって、本来すごく難しいじゃないですか。


tofubeats
自分とは違った人とコミュニケーションをとるために音楽というのは、一時はすごく使いやすかったわけですよね。


西村
そうすると、音楽がコミュニケーションの手段ではなくったということでしょうか。現代の音楽はどのような状態にあると思いますか?


tofubeats
以前はテレビのようなメディアがある程度、力を持っていたし、“選択肢”というのはそこまでのマニアじゃない限り限定されていたと思います。メディアやリスナー側が能動的に選べるようになって、今の時代の音楽がそれに合わせて力を変えている途中だと思います。


tofubeats
日本においてはアイドルなど旧時代的な手法がまだ通じる部分も多く、そういったトップダウンとボトムアップの間に今のJ-POPにあたる音楽はあるかな、という認識です。


西村
マスメディアからパーソナルメディアへの動きと、音楽の選び方の変化はなんだか似ているような気がします。

 

tofubeatsさんから逆質問! 私がみんなのうたにこだわるのは一体感がほしいから?

 


tofubeats
ちなみに西村さんが思う“みんなのうた”ってどういうものですか?


tofubeats
せっかくですから、西村さんの“みんなのうた”観を解き明かしていきましょう!


西村
え!!!?(質問されちゃったよ(泣)。)
お答えしにくいテーマで申し訳ございません(汗)。

PCの前で焦る、西村

 


tofubeats
いえいえ(笑)こちらは楽しいですよ(笑)!


西村
えっと…。私にとって“みんなのうた=共通言語”、人と人をつなげるものだと思っています。例えば『ふるさと』や『川の流れのように』のような曲。


tofubeats
西村さんが“みんなのうた”にこだわる理由というのが気になるんですよね。やはり、いろんな人と同じ歌を歌って“一体感を感じたい”、ということなのでしょうか。


西村
そうですね…。


西村
みんながネット社会に属することでバラバラになっている時代だと思うのですが、改めてみんなで一緒に歌えるような共通のものがほしい、そう思います。



tofubeats
そのみんながバラバラになる前に感じていた“一体感”が実は違っていて、本当はそれ以前に人間それぞれ趣味がバラバラだったということがわかったのだと自分は思います。


西村
そうなのでしょうか???(少し腑に落ちない。)


西村
例えばある本からの抜粋ですが、今のわたしたちって、モノフォニー*1の時代だと感じます。


西村
歌が生まれたのは、集団意識の強いホモ・サピエンスが敵を威嚇するため。だから最初はポリフォニーから始まった。
つまり、人間原点の観点で考えると、趣味はバラバラでも集団で生きる人間にとって一体感は必要であり、みんなの歌は機能するのではないのでしょうか?


tofubeats
もしかして『人はなぜ歌うのか』*2という本ですか?


西村
え!まさかのそれです!!!


tofubeats
ですよね(笑)。


西村
わああ!!!


tofubeats
最近僕も読みました(笑)。


西村
なんだか、嬉しいです(笑)。


西村
話は戻りますが、ミレニアル世代って自己中心的で、国家に興味がない人とか、社会に対する意識がない人が増えてきたのは、自分が好きなことの中で収まって、見て見ぬ振りをしているのかな? と思いました。


西村
ポリフォニーではありませんが、“みんなで歌う”という行為って共通言語として必要だと思います。また、社会問題に日常のそうしたことが反映されているのではないでしょうか。


tofubeats
それってやっぱりいいことだと思いますか?


西村
そうだと思ってはいますが、正直わからないです…。


tofubeats
そういう機能によって人がまとまっていって、グループができて、国家とかになっていくわけじゃないですか。ある意味、音楽はそういう集団を区切ることにも使われてきたわけですよ。


tofubeats
すごくわかりやすく言えば、軍歌とかもそうだと思うのですが。まあ使い方にもよりますが…。
自分的にはメディアの力によって、トップダウンで音楽が広まっていたということは、広められる音楽の種類によっては危険なこともあったりするわけだと思います。


tofubeats
それを今、人々が自分の聴きたいものをある程度選べる、っていうのはホンマええな〜、と自分的には思うわけです。


tofubeats
なので、そういう一体感に関して、自分的にはちょっとだけ否定的な気持ちがありますし、信用できないなあ、と思ってしまいます。


西村
確かに、言葉の力ってある意味、思考操作的な要素や縛りがありますもんね…。
そうすると、自分の判断が愚かになってしまう危険性は十分に考えられます。


tofubeats
まあどっちも極端なのはよくないですけどね(笑)。


西村
“一体感”といえば、よく音楽イベントに行くのですが、一緒に好きな音楽聞いているわりに一緒に楽しめていないな、と感じる時がしばしばあります。


tofubeats
う〜ん、別にそういった場所は“一体感”を感じるために行く場所じゃない、という認識なのでそれは難しいですね。


tofubeats
銭湯みたいなかんじで、社会性はあるし用途も全員一緒だけど、別にみんながみんな友達じゃない、みたいな空間な気がします。


西村
確かに。


西村
多様性が許される時代では、“一体感”ではなく自由に音楽を聴いて、個人が何を得るのか、ということの方が大事なのかもしれませんね。


西村
(そもそもホモ・サピエンスの例えなんて何千年前!? って感じだよな…。)

 

*1 モノフォニー……一つの声部(パート)のみからなる音楽のこと。対し、複数の独立した西部からなる音楽を、ポリフォニーと呼ぶ。

*2 『人はなぜ歌うのか』丸山圭三郎(岩波現代文庫、2014年)


tofubeats
多様性の時代ですからね…。


tofubeats
いろんな人の音楽を聞きやすくなった時代でもあるので、そういう意味では”みんなのうた”、になるのでは……(笑)。


西村
お、名言ですね!!!!


tofubeats
ぜったいこれ見出しに使わないでくださいね(笑)。


西村
(どこかで載せますが!!!)

 

ニューアルバム『RUN』から見る、tofubeatsの走る道

 

10月にリリースされたアルバム『RUN』[写真提供=ワーナーミュージック・ジャパン]

 


西村
よろしければ、最新アルバム『RUN』について少しお聞きしてもいいですか?


tofubeats
もちろんです!


西村
『YOU MAKE ME ACID』〜『RETURN TO SENDER』、3曲連続インストで驚きました!
普段の楽曲制作で言葉のある音楽と、ない音楽を作る時って、感覚の違いなどありますか?


tofubeats
歌詞を書くのは大変なのですが。歌詞が乗るともうちょっとメッセージというか内容がくっきりするので、その度合いによって調整します。逆にインストは歌詞がないぶん、限定しにくいのですが、いつでも聴くことができる曲が作りやすいです。


西村
ちなみにどちらを作る方が好きですか?


tofubeats
う〜ん、難しいですね。歌がのっているか、のってないか、っていうのは社会性というか、聞く人の問題だったり、流れるシチュエーションだったりすると思います。


西村
歌詞を作るとき、やはり言葉って大事だと思うのですが、どこからインスピレーションを受けていらっしゃいますか?


tofubeats
実は今回アルバムを作っている間に、小西康陽さん*3のブックセットがリリースされたのですが、めちゃめちゃやられてしまいました(笑)。
それから、制作日記の文体が寄ってしまったな、って反省しています。


西村
tofubeatsさんのオリジナリティも十分感じられましたよ(笑)。もし、影響を受けた本などありましたら書店を持つ編集部としてお聞きしたいです。


tofubeats
若林恵さん*4が去年リリースされた本で紹介されていた『文章予測』*5という本は参考にしています。
「人が文章を読むときは、先を予測して読んでいる。その期待を外したりすることで、興味を持続させる。」というようなことが書かれている本です。
内容はそんなに難しくないのですが、歌詞を作るときにそういう本とかを読んで歌詞を考えたりしましたね。


tofubeats
ただ色々考えてはいるのですが、結局思いついたことを書くだけなので、最終的にはシンプルな感じなりますね。考えを巡らせるために本は読むという感じです。


西村
『RUN』を作る際、いい曲を一緒に作れる人がいらっしゃらなかった、ということでソロアルバムの制作をされたとお聞きしました。
一方で、複数の方の手で作られる音楽では歌い手のキャスティングや編集をしていく上で知らない自分と出会えるともおっしゃっていましたね。


西村
実際にどちらも経験されて、自分らしさがよく出ているなと思うものはありましたか?


tofubeats
これ結構、難しいんですよね。


tofubeats
これまで一人でアルバムを作ったことがなかったので、『RUN』の制作は一人でやったとしても、一人きりでやる“自分らしさ”がやっぱりわからなかったです。これまで自分で本とか読んで、自分で“自分らしさ”を出すというのをやったことがなかったので、今回、“一人でやってみたかった”、というのがテーマです。


tofubeats
ちょうど今、“人を呼ぶ時”の方が良かったのか、“自分の時”の方が良かったのか、自分の中で比べて検証している時期です。


西村
どちらにも楽しさがありそうですね。


tofubeats
多分楽しいのはどちらも楽しいです。どちらか片方をやっていると普通に飽きちゃうので、人を呼ぶ時も、自分の時も両方やらないといけないんですよね。今はいろんな要素があるので、なかなかどっちが楽しいとは言いにくいかなって感じです。


tofubeats
『RUN』はまだ出たばかりなので、もうちょっとすると自分の中で落ち着いてきて、そのうち作ってきた時のことを忘れてくると思います。それから他のものと比べたりして、また次の音源に反映されていくんじゃないのかなって思いますね。


西村
なんだか、また新しいtofubeatsさんに出会えそうな予感がします。次回はどんなtofubeatsさんに出会えるのか楽しみです。


西村
それではそろそろお時間ですね。本日は「@spbs_chatroom」にお越しいただきありがとうございました。


tofubeats
こちらこそありがとうございました!


西村
(リラックスして楽しみましょう、なんて言っておきながら、自分が緊張してしまった〜。とほほ。)

*3 小西康陽……日本の音楽家。渋谷系を風靡したピチカートファイブのリーダーとして、2001年にグループ解散するまで在籍。

*4 若林恵……『WIRED 日本版』の前編集長。

*5『文章予測 読解力の鍛え方』石黒圭(角川ソフィア文庫、2017年)

 

編集後記

 

 
tofubeatsさんとお話させていただき、社会が人種、性、思考、さまざまな多様性に順応しているように、音楽、カルチャーも共に多様化していることを改めて実感。(このテーマで問いかけることは実はちょっぴり不安でしたが、)結果として先進的なtofubeatsさんの考えをお聞きすることができました。好きなことを選択できる時代って素敵ですね。今日みなさんが好きな音楽を流すとき、ふと“好きなものを選択できるシアワセ”を感じていただけたら嬉しいです。
 
それがまさに、“みんなのうた”と言えるもの!
 

tofubeats(とーふびーつ)さん

1990年生まれ、神戸在住の音楽プロデューサー/DJ。10代からインターネットを中心に活動を行い、ジャンルを問わず様々なアーティストのリミックスを手掛ける。プロデューサーとしても幅広いアーティストに楽曲提供/アレンジで携わり、 TVCMやWebコンテンツの音楽制作等も多数。
メジャーデビュー以降は、森高千里、の子(神聖かまってちゃん)、藤井隆ら人気アーティストと数々のコラボを行い注目を集め、3枚のアルバムをリリース。2018年、テレビ東京系ドラマ 「電影少女-VIDEO GIRL AI 2018-」や、映画『寝ても覚めても』の主題歌・劇伴を担当するなど活躍の場を広げ、10月3日に4th アルバム「RUN」を発売。今月28日に配信シングル『RUN/RIVER』2曲を両A面シングルとして7インチレコードでリリース。
●公式ウェブサイト
●WARNER MUSIC JAPAN アーティストページ

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