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「iPhoneで撮る写真」は「写真」ではない? ──20歳のインスタ・ネイティブな写真家との対話 石田真澄さん×岡本仁さん

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左から、岡本仁さん、石田真澄さん

 
今回で8回目を迎えた、岡本仁さんがプロの写真家の方に公開インタビューする大人気企画『Talkinbout Photography』。
イベントの冒頭で岡本仁さんから告げられたのは、なんと、突然の“最終回”!
 
最後の記念すべき写真家の方はこの対談イベントでは最年少の石田真澄さんです。
「思い出せないけど知っているような風景」、「記憶の片隅に残していた青春時代」。そんなデジャヴが味わえる、ノスタルジー溢れる石田さんの写真。新しい時代の中に世代を超えた懐かしさを与える若き写真家。いかにして、この“刹那”を切り取ることができているのでしょうか。
 
最終回となった『Talkinbout Photography』“iPhoneで撮る写真”は気づけば溜まっていき、撮っていたことすら忘れてしまうことがある。この写真は一体、本当に“写真”なのか? 岡本仁さんが8人の写真家と話をして見えた結論とはー。
 
文=西村華子(SPBS編集部)
写真=SPBS編集部
 

出発点はインスタグラム、新星発掘現場の変化

 
岡本:いきなりなんですけども、これで最終回にします。最後にいうべきかな。でもそんな気分なんです。石田さんに会えたからこれで最終回でいいや(笑)。
 
会場:(笑)
 

 
岡本:ちなみに、インスタグラムはいつ始めました?
 
石田:最初に始めたのは中学1、2年生とか。もう昔のインスタの投稿は消してるんですけど。
 
岡本:え、中学生? だから 最初のポストが2016年だったのか。できる限り石田さんのインスタ見て、石田さんの過去を遡ろうとしたんですけど、前の投稿消してるって分かったらしどろもどろになっちゃった。
 
石田:なんか恥ずかしんですよね(笑)。
 

 
岡本:えっ! 恥ずかしくなった理由って?
 
石田:自分の言葉とか、内面とか、性格とか、知られるのはすごく嫌なので。余計な情報と一緒に「石田はこういうやつだからこういう写真撮るんだな」って繋げられると、インスタ見てくれてる人の写真に対する見方が変わっちゃうんじゃないかと思って。写真だけを見て欲しいのに。
 
岡本:僕もインスタ見直そうかな。なんか、削りたいものが確かにある。とりあえず、消してない投稿で一番古いのだと、2015年12月22日のポストですね。『soup』っていう雑誌でインスタグラマーって紹介されてたよね。
 
石田:当時はフィルムカメラの写真をただインスタグラムにアップしてただけなんですよ。12月くらいにあるメディアの方から取材をさせてくださいというメールもいただいて、その後、5月には個展もしました。
 

石田さんのインスタグラムより、2015年12月22日の投稿。

 
岡本:その方たちはどうやって石田真澄を知ったんですか?
 
石田:インスタグラムのDMで連絡いただきました。
 
岡本:このトークシリーズの第1回目の濱田英明くんもインスタがきっかけで写真家だと知ったんですけど、インスタが仕事のきっかけになるような使い方はしてなかったと思うんですよね。石田さんも意図して使っていたわけじゃないとしても、インスタのDMやメールでくるんですね、お仕事の依頼が。
 

なんだか懐かしい、石田真澄が映し出す思い出の残像。

 
石田:個展『GINGER ALE』をやったのが5月で、出版社に勤めていた方から「写真集つくりませんか」ってお話をいただいたのが7月だったんですけど、1st写真集『light yearsー光年ー』は年明けに出来上がりました。
 
岡本:写真集の依頼はメールじゃなくて、直接お話が来たんですか?
 
石田:最初はメールで。
 
岡本:その話をいただいたときは、どんな感じでした。
 
石田:写真集を作りたい、っていう気持ちはまだなかったんです。だけど、高校を卒業して全然違う生活がやってきた時期だったので、大きな区切りになると思ったんです。高校生までの写真で構成したいってことで、「それならぜひやりたいです」ってお返事しました。
 
岡本:なるほど。
 

 
石田:でも、自分の写真集を誰が買うんだろうと思ってたんです。だけど、以前取材をしてもらった時、なんで写真を撮ってたんだろうって話をしたり、これからどういう写真を撮っていくのだろう、みたいなお話をしたことで分かってきたことや発見もありました。
 
岡本:その時どんなことを発見したんですか?
 
石田:“高校生”っていう肩書きがあると、無敵感だったり、周りからの見る目が変わったりするっていうのは自覚していて、それを失うと思うと、卒業するのが嫌だっていう気持ちがあったんです。それを刹那的に感じていました。
 
岡本:ずっと高校生でいたいみたいなね。
 
石田:高校は3年で終わりっていうのがあったから私はその“終わり”に対して恐怖を感じたりとか、不安があって、っていう話。
 

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20161208

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岡本:なるほどね。でも、これからどんどん“終わり”がなくなりますよ。特に大学が終わった後は。
 
石田:区切りがないですもんね。
 
岡本:ちょっとおっしゃってたけど、自分が終わりたくないと思っていたから記録をしていたっていうのは、自分や写っている人にとって、大きな意味があったかもしれない。だけど、写真集の中の状態を実際に体験してない人が、自分の写真を見るだろうかっていう不安はありますよね。
 
石田:この写真たちは自分のために撮ったものだったんです。クラスメイトの写真を撮っていてもその子たちのためではなくて、私が見て楽しいって思うための写真だったんですよ。かなり私的に近いものなので「体験してないものをだれかが見て懐かしいって思ったりするのかな?」って。
 
岡本:自分のための写真か。
 

石田さんのインスタグラムより、写真集『light years-光年-』。

 
石田:出版するまではクラスメートでもない、年齢も、性別も違う人が見たらどうなんだろうっていう不思議でしかなかったです。展示の時とかに「なんだか見たことがある風景なんだよね。」とか、「絶対見たことがないし、体験してないのに、なんか見たことあるような気がするんだ。」っていろんな方から言ってもらって、なんでなんだろうってずっと思っていました。でも、それが『カロリーメイト』の写真に繋がるんですけど。
 
岡本:どう繋がったんですか?
 
石田:例えば集合写真の「ここで撮ります」って撮った写真って、よく撮られるじゃないですか。だけど、集合写真を撮るまでの風景とか、撮った後みんなが散っていく風景って、絶対みんなの記憶にはあって、だけど残されにくい瞬間なんです。アルバムにも載ってない瞬間だけど、そういうところを切り取ってみると、人の記憶の中に絶対それはあるので、懐かしいなという気持ちにはなる。『カロリーメイト』の写真もそういうのを狙ったんです。
 

石田さんのインスタグラムより、『カロリーメイト』なぎなた部の写真。

 
岡本:例えば?
 
石田:「部活動を撮る」っていう企画だったんですけど、サッカーをしてボールを蹴っている瞬間の写真とか、ゴールの前で二人立ってますっていう風景はよく残されやすくて、記憶も濃い写真。だけども、それ以外の写真でも、ただそこで休んでるサッカー部の二人っていうことが分かれば懐かしいって思えるんじゃないの? とか、アルバムに乗らない写真でも良い写真はあるし。みんなの記憶の片隅にあるものだと思って、そういう写真を撮ってみたんです。
 

石田さんのインスタグラムより、『カロリーメイト』サッカー部が休んでいる写真。

 

明日にはない、今日あるもの。気づいたときに刹那になる。

 
岡本:あの、石田さんのことをインターネットの記事で読む時に“刹那”って言葉がよく出てくるんですけど、それについてどう思いますか。
 
石田:“刹那”に対して、美しさを感じる人が多いと思うんですけど、私はそんなに感じなくて、それより悲しさの方が勝つ。例えば高校時代も終わりがあって、あと一年で終わるって気づくと悲しくなるんですよ。気づかないと卒業直前まで割と楽しいまま過ごせる。私は高校の始めくらいに気づいちゃって、「終わっちゃう、悲しい」っていうのがあったんですよ。だから、素直に楽しめないというか、楽しんでいるみんなの写真を撮ってる方が安心できました。“刹那”っていうのはそれに気づくと“刹那”になる。
 
岡本:ご自分が“刹那”に気づいた瞬間から、みんなが楽しんでいる輪の中に入らずに、ちょっと外側からみるようにしてたんですか。
 
石田:集合写真とかを撮るみんなを撮る、っていうのがすごく好きで、撮っていると安心した。終わっちゃうけど残しておけば大丈夫、って。
 
岡本:よく“here today”っていう言葉を使っていたんですけど、あるとき誰かが“here today”の後に“gone tomorrow”がつくと、今日あるものは明日はないになって、今が切ないんだって。そういうのが何かを呼び起こすんだろうなって思います。誰かの中にある原風景だったり原体験だったりというのは、記憶の中で実は曖昧になっている。「あの時、あいつはこう言った」という記憶は、「それを言ったのはこいつだった」という現実とは違うものだったということが起き得ると思うんですけど、記憶を呼び覚ます装置として、やっぱり“写真”ってすごいなって思います。
 

 

Talkinbout Photography 最終回、岡本仁が想うこと。

 
岡本:いつも自分が“iPhoneで撮る写真”って、“写真”なの? って疑問に思ってこのトークシリーズ始めたんですけど、結局、“iPhoneで撮る写真”が“写真”と一番違う点は、5、10年経ったら何かになりうるかもしれないものを削除してしまう、っていうところなんですよね。何かになる得るかもしれないものを、すぐに削除できるっていうところなんですよね。それが”写真”になるための時間を置かないで、うまく撮れなかったから削除とか、恥ずかしいから削除、ってしていたら何も残らない。

今日を最終回にしようと思ったのは、撮った瞬間の満足だけで判断するのなら、それは“写真”じゃないんだなってものすごく感じたからです。それが8回このトークイベントをやったぼくの結論です。「iPhoneで撮る写真は“写真”じゃない」、でも撮り続けますよね。好きだから。そしてそれを写真にしたいから。
 

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【石田真澄さんへの公開インタビューのお知らせ】 友人が教えてくれた写真家の石田真澄さん @8msmsm8 のインスタグラムをフォローしたのは6月28日。しばらくすると彼女がカロリーメイトの広告「部活メイト」シリーズを撮影して ポスターが半蔵門線の渋谷駅地下道に貼り出されたのです。すぐに見に行きました。そして〈SPBS〉の鈴木美波さんに連絡をして 石田さんに公開インタビューしたい旨を伝えました。彼女の写真集『light years 光年』を手に入れたのは その翌日だったと思います。これがいまのところ ぼくが石田真澄さんについて知っているすべてです。『light years』は彼女の高校時代の学校生活を撮ったもの(とはいえ ほんの数年前)。個人の思い出が多くの人の感情を揺さぶり普遍的なものになるには いったい何が必要なのだろうかと考えたぼくは こともあろうに自分の高校時代のアルバムを引っ張り出しました。そこには当然ながら自分で撮った写真以上に 自分が写っている つまり自分以外の誰かが撮ったものばかりが収められていたんです。おそらく大学生の時につくったそのアルバムは レイアウトが下手くそながら工夫されていて 雑誌から切り抜いた文字を使ってタイトルが付けてあったり キャプションがついたりしていました。少なくともぼくが写真家になるような気配は皆無で笑うしかなかった。なんだか一刻も早く石田さんと話したくなりました。 #hitalkinboutphotography60 ⚫️【TALKIN’BOUT PHOTOGRAPHY 8】9月16日(日)午前10時〜(開場9時半)渋谷神山町の〈SPBS〉にて。参加申込みはSPBSのホームページから。お待ちしています。

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岡本さんのインスタグラムより、岡本さんの高校時代のお写真。

<プロフィール>

岡本仁(おかもと・ひとし)さん

編集者。北海道夕張市生まれ。マガジンハウスで『BRUTUS』『relax』『ku:nel』などの雑誌編集に携わった後、ランドスケーププロダクツに入社。同社の「カタチのないもの担当」として、コンセプトメイクやブランディング、書籍制作、雑誌連載など、活動の幅を拡張し続けている。著書に『今日の買い物』(プチグラパブリッシング)、『ぼくの鹿児島案内』『ぼくの香川案内』(ともにランドスケーププロダクツ)、『果てしのない本の話』(本の雑誌社)など。Instagram:@manincafe

 

石田真澄(いしだ・ますみ)さん

 1998年生まれ。中学の頃よりインスタグラムを始め、2017年5月自身初の個展「GINGER ALE」を表参道ROCKETで開催。2018年2月、初作品集「light years -光年-」をTISSUE PAPERSより刊行。同年7月、カロリーメイトの広告サイト「部活メイト」の撮影を手がける。Instagram:@8msmsm8

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