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やまいってからが人生の本番! 五木田智央さん×伊賀大介さん×井上崇宏さんの男3人プロレス夜話

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やまいってからが人生の本番! 五木田智央さん×伊賀大介さん×井上崇宏さんの男3人プロレス夜話

東京オペラシティアートギャラリーにて「五木田智央 PEEKABOO」を開催中の画家、五木田智央さん。作品のモチーフにもレスラーが登場するなど、プロレス好きとしても知られています。

SPBSでは今回の展覧会の真っ只中に、“プロレス好き”という共通項を持ち、普段から親交のある伊賀大介さん(スタイリスト)、井上崇宏さん(『KAMINOGE』編集長)をお招きして、トークイベントを行いました。

トークテーマは、“すべての道はプロレスにつながっている”。

画家、スタイリスト、編集者、それぞれのリングで活躍する3人の心には、熱くてしなやかなプロレス愛が満ちていました。

大人になったプロレス少年3人の胸アツトークから、一部を抜粋してお伝えします。

 

写真 = SPBS編集部

文 = SPBSスタッフ

 

アントニオ猪木、ブラジルに行ってない説を検証する

井上崇宏(以下、井上):五木田さんは、やっぱりアントニオ猪木が好きなんですよね。

 

五木田智央(以下、五木田):好きですね、やっぱり。

 

伊賀大介(以下、伊賀):私服とかもかっこいいですよね。東京プロレス時代※1とか、特に好きです。

 

井上:むちゃくちゃかっこいいですよね。じつは最近聞いた話があるんですけど、「猪木、ブラジル行ってない説」というのがあって。2

 

五木田:うそだろ、それ!?(笑)。

 

伊賀:ずっと鶴見にいたみたいな?

 

井上:最近、とある人にそれですごいバカにされたんです。「行ってないよ猪木!」って。

 

五木田:だって写真あるじゃん!! 兄弟でブラジルのコーヒー農園に行った写真が!

 

井上:いや、そうなんですけど、100パーセント否定できない俺もいて……(笑)。

 

伊賀:じつは伊豆シャボテン公園で撮ったとか? これ行ってなかったらすごいことですよ。

 

五木田:猪木舌出し事件※3に次ぐ事件になるよね(笑)。

 

 

伊賀さんがKAMINOGEの表紙に仕掛けたプロレスメッセージ

井上:伊賀さんはスタイリスト目線でかっこいいなと思うレスラーはいるんですか?

 

伊賀:俺、スタイナーズ※4が好きだったな。

 

五木田:大好き! かっこいい。

 

井上:やっぱりスタイナー兄弟はぶっちぎりで。あと初期のグレート・ムタもかっこよくない?

 

伊賀:いやぁ、ムタはめちゃくちゃかっこよかった。最初見たときひっくり返りましたよ!

 

井上:以前、『KAMINOGE』の表紙に麻生久美子さんに出ていただいたとき、旦那(伊賀さん)がスタイリングでスタジオに来てくれたの。

 

五木田:行ったの?

 

伊賀:だって、『KAMINOGE』の取材のスタイリングに俺が行かなかったら逆に変じゃないですか(笑)。

 

井上:それでね、麻生さんに「今日これね」って言ってよっれよれのムタのTシャツを着せるの! あれは麻生さんのマネージャーもあっけにとられてたと思う。「うちの麻生をどうする気?」って(笑)。

KAMINOGE vol.18【価格】本体価格952円+税

 

伊賀:これこれ。

 

五木田:これはいい表紙! 写真もいいよねえ。

 

伊賀:みなさん、ムタってわかります? グレート・ムタって言って、武藤敬司がアメリカのNWAっていう団体で修行してたときに忍者のギミック※5をやってて。グレート・カブキ※6の息子っていう設定だったんですよ。このTシャツは、中学のとき、一緒に後楽園ホールにチャリンコで通ってた友達がアメリカに行ったときに古着屋で見つけて買ってきてくれたんすよ! だからそいつへのメッセージっていうか。

 

井上:あはははははは! 表紙を友達への私信に使うなよ!(笑)。

 

伊賀:「あのとき、俺たちムタ超好きだったよな!!!」っていうメッセージ(笑)。

 

五木田:いいねぇ〜。いい話だな。大好きそういうの!!

 

井上:ははは。で、マネージャーさんは麻生さんが表紙だって聞いたときもまた顔色が変わっちゃって。

 

伊賀:はいはいはい。

 

井上:そんな、後ろのほうで小っちゃく載せてくれたらいいんですよみたいな。まさか表紙登場を嫌がる事務所があるんだと思ってショックでしたけど(笑)。

 

五木田:だって、なんの雑誌かわかんないもんね(笑)。

 

 

井上:大介くんも当時言ってたけど、女優さんだから髪の毛が顔にかかっている写真っていうのは基本NG。でも仕掛けたほうがいいと! これで行きましょうと!

 

伊賀:そうそう。女性誌だとこういう写真は絶対にはじかれるけど、これがいいんだよってなりましたよね。

 

五木田:ずっと言ってるけど、俺は『KAMINOGE』の中でこの表紙がいちばん好きだわ。

 

伊賀:俺がまた嬉しかったのが、この表紙を武藤敬司が見て「なんでこの人がムタのTシャツ着てるの?」って言ってたって聞いたんだよね。

 

五木田:届いたんだ、ちゃんと。

 

伊賀:そう。それも込みで嬉しかった!

 

井上:俺は普段、女性のインタビューってあんまりしないから、もうあのときはがんばってさ。アハハ、オホホと盛り上げながらやるわけですよ。そしたら、そんな光景を後ろでスタイリストの旦那が目を細めて見てるのね。で、そのあと飲みに行ったら、「井上さん、うちのカミさんをエロい目で見るのやめてもらっていいですか」って言われて「見てねーよ!!」って(笑)。そんなことが思い出される表紙です。

 

五木田:ははは、そんなのあったんだ。

 

伊賀:ありましたね(笑)。

 

プロレスに恩義がある人が、天下とってるうれしさ

井上:俺らのなかでは五木田さんは世界チャンピオンなんですよね。パッキャオ※7みたいな存在なんですよ。

 

伊賀:そうそう。

 

五木田:いやいや、全然チャンピオンじゃないですよ。

 

井上:言ってみればスラム街から生まれたスターのようなもので、本当に同じスラム育ちとしては一緒になってガッツポーズできる存在です。

 

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伊賀:プロレスに恩義があってやってる人が、天下とってるっていうのが、プロレス者としてはこんな痛快なことないなと思います。ファッション業界もたいがいプロレスに興味ないんで。

 

五木田:うん、ないよねえ。

 

伊賀:それを「ナメんな!」みたいな感じでずっとやってきて、こうして現在があってよかったなっていうか。

 

五木田:それはあるな。プロレス的な感情というか、ナメんじゃねぇよ、と。「プロレス好きなんでしょ?(嘲笑)」みたいな見方に対するね。

 

伊賀:なんか半笑いというか。俺は海外の人にも言われたりしますよ。

 

五木田:そう、海外の人にも言われる! 「お前レスリング好きなんだって? ハッハッハッハッハ!」って。バカにすんなよって毎回思ってる。

 

井上・伊賀:あははは。

 

五木田:くやしいよ、俺は! 俺も英語力がないからさ、「はっはっはっは!」ってごまかしたりするんだけど。はぁ〜言い返したい! でも言い返せない。くそ〜! みたいな。仲いい奴はわかってくれるんだけどさ。

 

井上:こないだも打ち上げで綺麗なお姉さんから「プロレスって八百長ですよね?」って言われたんです。

 

五木田:まだ言うか!? まだ言うのか!!!

 

伊賀:なんて返したんですか?

 

井上:正直、不意をつかれすぎて絶句しちゃって。「八百長」って、普段の日常生活の中で飛び交うような言葉じゃないじゃないですか。

 

五木田:ちがうよってちゃんと言った方がいいよ! 八百長じゃないよって。

 

伊賀:ロックコンサートのアンコールだって、あらかじめやることが決まっているわけじゃないですか。それも八百長だって言うのかよって。世の中に八百長的なものなんて他にいくらでもあるのに。

 

五木田:プロレスだけが矢面に立たされて……。ひどいよね、みんな。

 

五木田さんは桜庭和志と同い年(1969年生まれ)
「PRIDEおもしろかったな〜!」と写真を見ながら懐かしむ場面も。

 

人生の本番は“やまいってから”つらいことを経験したあと面白くなる

井上:僕ね、プロレスラーのどういうところが好きかっていうと、業界の用語で「やまいく」っていう言葉があるんです。相撲用語から来てるんですけど、ケガしたとか病気したことを「やまいく」って言うんですよ。語源としては「病いに臥せる」から来ていて、たとえば試合して「あいつ、膝をやまいっちゃった」っていうふうに使うの。その使い方も少しずつ変わっていってて、もうプロレスやりすぎてわけわかんなくなっちゃって一般人とはまったく違った感性を手に入れることを「やまいったよ」って言ったりもしてて。ベテランレスラーってめちゃくちゃ話がおもしろいじゃないですか、それはみんな何度もやまいっちゃってるから。

 

五木田:おもしろいよねぇ。すごい整然と話したりしているけど、ちょっとイっちゃってる。

 

井上:だからプロレスラーに限らず、我々の人生もやまいってからが勝負なのかなって気がするんですよね。五木田さんも29歳で初めての個展を開いたあと※8、暗黒期があったわけで。

 

五木田:ありましたよ、よくわからないときが。一回地に堕ちたね。井上さんもあったでしょ?

 

井上:ありますよ、そりゃ。みんな生きてていっぱいつらいこととかあるわけじゃないですか。だけど、そこを経てから人生が面白くなるというか、みんなに笑ってもらえるようになる(笑)。やっぱり、やまいってからが勝負だなって最近つくづく思いますね。

 

伊賀:本当にそうですね。この続きはこのあと飲みに行ってからやりましょう(笑)。

 

会場では『KAMINOGE』77号の特別早売りを実施。
五木田さんの個展の様子も満載です。

 

開催中の展覧会では、五木田さんが16年間描き続けてきたというプロレスレコードジャケットも公開中。この展示には、「美術館を中古レコード屋にしてやる」という裏テーマもあったようだ。「美術的には何の評価もされないものを、結構みんな笑いながら見てくれているのが嬉しい」と五木田さん。

五木田智央さんの展覧会は6月24日(日)まで東京オペラシティアートギャラリーで開催中です!

 

<展覧会情報>

Tomoo Gokita  PEEKABOO

2018年4月14日(土)~6月24日(日)
会場:東京都 初台 東京オペラシティアートギャラリー
http://www.operacity.jp/ag/exh208/

 

▼オンラインショップ

五木田さんの作品が掲載されている『THE PURPLE JOURNL No11』をSPBSオンラインショップで販売中です。

 

1:東京プロレス…1966年に蔵前国技館で旗揚げされたプロレス団体。豊登とアントニオ猪木を主力選手とした。東京プロレスは3ヶ月で破産し、猪木はその後日本プロレスに戻ることになる。
2:猪木のブラジルでの生活…生活の厳しさから、猪木は13歳のときに家族でブラジルに移住し、14歳でコーヒー農園に入った。早朝から夕方まで働きづめのコーヒー農場での仕事はつらく、のちのレスラー生活に役立ったという。
3:猪木舌出し失神事件…1983年6月2日の蔵前国技館。IWGP決勝でハルク・ホーガンと対戦した猪木がホーガンのアックスボンバーを2度食らい、場外で失神した試合のこと。4日の東京スポーツの見出しは「猪木壮絶KO負け ホーガンの「殺人斧」が2度直撃」。
4:ザ・スタイナー・ブラザーズ…兄リック・スタイナーと弟スコット・スタイナーの兄弟によるプロレスのタッグチーム。1989年にWCWでデビュー。日本では1991年3月21日、新日本プロレスの東京ドーム大会での来日以降、参戦している。現在WWEで活躍する中邑真輔が書いたザ・スタイナーズのイラストは、KAMINOGE vol.41の表紙になっている。(http://www.toho-pub.net/product_info.php?cPath=0_3_67&products_id=700
5:ギミック…プロレスにおいてしばしば使われる用語。リング上での演出やレスラーのキャラクター設定を指す。
6:ザ・グレート・カブキ…1964年に日本プロレスに入団。アメリカ遠征中の1981年、WCCWにて歌舞伎役者をモチーフにしたペイントレスラーとして活躍した。毒霧、正拳突きなどを得意技とする。2017年末に引退。
7:マニー・パッキャオ…フィリピンのプロボクサー。子どもの頃、一日一食も食べられないような貧しい暮らしから一躍、史上2人目となる6階級制覇王者へと昇り詰めた。フィリピンの英雄として広く知られており、現在は上院議員を務めている。
8:ながらく「29歳ブレイク説」を唱えてきた五木田さん。敬愛するアントニオ猪木が新日本プロレスを立ち上げたのも、前田日明が第二次UWFを立ち上げたのも29歳だった。それに並ぶように、29歳で五木田さんは初めての展覧会「ランジェリー・レスリング」を開く。順風満帆に見えた前途だが、そのあとほどなくして自分が何者かわからなくなる暗黒期を迎えることになったという。

 

<プロフィール>

五木田智央(ごきた ともお)さん/画家

1969年東京生まれ。イラストレーションから出発し、60〜70年代のアメリカのサブカルチャーやアンダーグラウンドに影響を受け、当時の雑誌や写真にインスピレーションを得た作品を発表。90年代後半にドローイング作品により熱狂的な支持を得る。その後、キャンバスにアクリルグワッシュで描くモノクロームの人物画を中心に制作。

 

伊賀大介(いが だいすけ)さん/スタイリスト

1977年 、西新宿生まれ。96年より熊谷隆志氏に師事後、99年、22才でスタイリストとしての活動開始。雑誌、広告、音楽家、映画、演劇、その他幅広いフィールドで活躍中。

 

井上崇宏(いのうえ たかひろ)さん/編集者

1972年、岡山県生まれ。プロレスラーを中心に、“世の中”とプロレスする様々な人物のインタビューで人気の『KAMINOGE』の編集長を務める。

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