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「楽に生きる」ことが苦手です!──精神科医・星野概念さんと発酵デザイナー・小倉ヒラクさんに悩みをぶつけてみた

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「楽に生きる」ことが苦手です!──精神科医・星野概念さんと発酵デザイナー・小倉ヒラクさんに悩みをぶつけてみた

星野概念さんと小倉ヒラクさん

 
『ラブという薬』の共著者で精神科医の星野概念さんと、「発酵」の伝道師である発酵デザイナーの小倉ヒラクさん。お二人にお悩みをぶつけたら、素敵な答えが返ってきました。

※本記事は、2018年5月27日にSPBS本店で開催されたトークイベントの一部より構成したものです。

 
文=志村優衣(SPBS)
 

【お悩み】「楽に生きる」ことが苦手です

相談者:「楽に生きなよ」「楽にやったらいいよ」とよく言われますが、それがうまくできなくて。「楽にしなきゃ」が強迫観念のようになってしまって、ぐるぐる考えすぎてしまうんです。どうしたらいいんでしょう?
 

考えたり悩んだりする時間が、未来の自分をつくる

星野:たしかに、いまおっしゃっていたように、「気楽にいこうぜ」的なことって、それもそれでストレスになっちゃっている可能性があるんですよ。だって、そんな気楽にいけないですもんね。だから、「気楽にやる」とか「考えすぎない」っていうのは、「結果的にそうなれれば楽しいと思いますよ」っていうくらいの話。
 
そういうふうにめちゃくちゃ考えてるときって、本読んだり、映画観たりしながら、試行錯誤をするじゃないですか。試行錯誤って、やってるときはすごいきついんですけど、でもそれは何かになっていくための学習の過程だと思うんですよね。
 
その試行錯誤の時間……それが発酵っていう言葉が正しいのかはわからないけど、熟成なのか発酵なのか……そういうものが巡り巡って、何年後かの自分になっていると思うんで。だから、いま気楽になれないとか、考えが整理できないっていうのは、それでいいんだと思います。時間をかけて、何かしらのかたちになるのがいい。それは治療でも一緒なんですよね。
 

いまは人生の発酵期間なのかもしれない

 

「発酵中」はあせらないことが肝心

小倉:頭のいい人とか感性がいい人って、メタ視点で考えて抽象化する「形而上(メタフィジックス)」への道を登りたがるんだけど、ぼくは、中途半端に抽象化しないほうが楽しく生きられるんじゃないかなって思ってて。
 
あと、ぼくのまわりって伝統芸能やってる人が多いんですよ、能とか舞踊とかね。あれってテンプレートの世界ですね。テンプレートの中に、自分のアイデンティティを意図的に閉じ込めていくことによって、逆に自分らしさが出てくるっていうのが面白い。
 
「私って何者なんだろうか」とか、「このままでいいんだろうか」って悩むのって、一つは形而上学の方向にすぐ行っちゃうからだと思うんだよね。もうひとつは、自分の中に、自分を縛る型がなさすぎるんじゃないかなと。
 
ぼくは、本当はね、縛られまくったほうがいい気がしてるんですよ。「フリースタイル」って言われると、意外と人間ってどう動いたらいいかわからない。
 
たとえばぼくにとっては、最強の型が「微生物」と「発酵」だったんですよね。だから、「人間のルール禁止」を自分に課していて、ぼくには日曜日がない、なぜなら微生物に日曜日はないから(笑)。
 
でもそのフレームの中で、自分がどう振る舞うかガイドがついているような感覚があって。ぼくはもともと東京でフリーな生活をしていたけど、こう、人間じゃないものに縛られまくっている今の方が、なぜか気持ちが楽だなって思っています。なんか変な感覚ですけどね。
 

悩んだら「お稽古」をする

星野:その型をどうやって見つけよう……って悩んで、無限ループになりそうですが。
 
小倉:いっぱいあるよ、型。写経とかいいんじゃない?
 

写経……?

 
相談者:大学でもともと社会学を学んでいたので、もう一回やり直してみようかなって思って。
 
小倉:お稽古いいよ。お稽古ごと。
 
星野:社会学をぶった切りましたね(笑)。習いごとってこと?
 
小倉:そう、手習い。社会学を中途半端にやると、またメタ化するから。一回、メタへの立ち入り禁止をしてみればいいんじゃないかな?
 
星野:あー、たしかに。ぼく、毎日ボイストレーニングしてたときがあったんですよ。
 
小倉:おお、ボイトレ!
 
星野:毎日30分はカラオケに行って、ボイストレーニングをするのを、3年間ぐらいしてたんですよ。そしたら、ちょっとずつ歌がうまくなったんですよね。
 
その体験って、全然メタじゃないんですよ。声のことばっか考えて、声帯の解剖図とかめっちゃ見て、この神経が……みたいなこと考えて。
 
小倉:いい、いい。そのときは「具体」の世界にいたわけですよね?
 
星野:そうそう。で、3年間やるとちょっとずつだけど、うまくなったっていう経験をするじゃないですか。
 
その前の自分はずっと「メタ」のところにいて悩んでたんだけど、ボイストレーニングやって、なんでも地道に頑張るとかたちになるっていうあたりまえのことが、実感を持ってわかった。それで焦らなくなった。
 
小倉:「形而下」に没入することこそ、癒し。
 
星野:だからお稽古はそういう意味でいいかもしれないですね。
 

『ラブという薬』は、いとうせいこうさんと、
実際にいとうさんの主治医である星野概念さんの対談集です

 

星野概念(ほしの・がいねん)さん / 精神科医・音楽家

精神医学や心理学を少しでも身近に感じてもらうことを考えて活動する、総合病院に勤務する精神科医。執筆も行い、Web『Yahoo!ライフマガジン』で「めし場の処方箋」、BRUTUS「本の診察室」など寄稿も多数。いとうせいこうさんとの共著書『ラブという薬』(リトルモア)が好評発売中。

 

小倉ヒラク(おぐら・ひらく)さん / 発酵デザイナー

「見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、東京農業大学の醸造学科研究生として発酵を学びつつ、全国各地の醸造家たちと商品開発や絵本・アニメの制作やワークショップをおこなっている。書籍『てまえみそのうた』でグッドデザイン賞2014受賞。自由大学や桜美林大学等の一般向け講座で、発酵学の講師も務めている。

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